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大屋地爵士のJAZZYな生活

ドキュメンタリー、報道、ルポルタージュ、映画、そして自然

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(遊び場の山に咲く「エゴノキ」の花。果皮に有毒なサポニンを多く含み、果実を口に入れると喉や舌を刺激して「えぐい(えごい)」ことに由来した名。)



ここ2ヶ月の間に、震災や原発事故に関する本をいくつか読んだ。いまだ頭の中で整理は殆どついていないのであるが、ドキュメンタリー、報道について考えされられた本がいくつかある。

「吉村昭/三陸海岸大津波(文春文庫)」。青森・岩手・宮城の三県にわたる三陸沿岸は、近代になってからも、明治29年、昭和8年、そして昭和35年のチリ地震と三たび大津波に襲われ、人々に悲劇をもたらした。大津波はどのようにやってきたか、生死を分けたのは何だったのかを、もう少なくなってしまった体験者の貴重な証言をもとに再現した昭和45年(1970年)発刊の本。文学にまで昇華したといっていいドキュメンタリー。この悲劇の中から得られたはずの貴重な知恵は今回は生かされなかったのだろうか?

三陸海岸大津波 (文春文庫)

吉村 昭 / 文藝春秋



多分、今後の日本人の心のあり方、生活様式、歴史感などを根底から変えるきっかけとなったかもしれないこの3ヶ月。まさに「歴史の転換点3.11.」後の1カ月の朝日新聞の全報道と記録写真集が重い。目を覆う惨状ではあるが、阪神淡路大震災とともに決して忘れてはならない日本の記録。この大震災を俯瞰して振り返ったり、これからの対策、検証には活かさなくてはならない報道記録。

朝日新聞縮刷版 東日本大震災 特別紙面集成2011.3.11~4.12

朝日新聞社 / 朝日新聞出版




報道写真全記録2011.3.11-4.11 東日本大震災

朝日新聞社 / 朝日新聞出版



しかしこの報道集、写真集には、「原発事故現場で自ら取材」という決定的な視点がまったく抜けているのである。このことは、朝日に限らずマスコミ全てに共通したことである。すなわち現場に取材に入っていないのである。近づくことさえも ・・・。恐ろしい気持ちはよくわかるが、政府、東電発表、いわば大本営発表をそのまま流しているだけで、報道ジャーナリズムの責任を果たしたといえるのだろうか。もちろん、その後立ち入り禁止になってしまったので、今もって状況は同じである。たしか地震直後原発の近くまで入ったジャーナリストは、「不肖・宮嶋」氏ほか外国メディアなど極く少数であったと記憶している。その宮嶋氏にしても、まったく他の取材陣がいないので、気がついてすぐ逃げ出したとTVのトーク番組で語っていた。もちろんジャーナリストとはいえ命が大事であるのいうまでもないが、社内規制よるのか、何だか知らないが、TV、新聞社など日本の大手マスコミはどこも現場に入らなかったと記憶している。原発推進派であった学者達をあれだけ解説者に起用して、政府・東電の発表どおり「チェルノブイリのようにはならない、大丈夫である」と報道していた彼らが、最悪の「レベル7」のいまになって東電をたたき、政府の対策を「ああだこうだ」と批判しても、説得力が一向に感じられないのは当たり前である。

「メルトダウン(炉心溶融)」のときに、よく引き合いに出される「チャイナ・シンドローム/China Syndrome」という言葉がある。「炉心溶融が、米国で発生すれば、溶融した核燃料がが地球を貫通し、反対側の中国にまで及ぶ」という意味であったと思う。ドキュメンタリーではないが、それタイトルにした映画が、「ジェームズ・ブリッジス/James Bridges」監督「チャイナ・シンドローム/The China Syndrome」(1979年制作)。「ジェーン・フォンダ/Jane Fonda」、「ジャック・レモン/Jack Lemmon」、「 マイケル・ダグラス/Michael Douglas」などそうそうたる俳優が出演、その年のアカデミー賞にて、主演男優賞、主演女優賞、美術賞、脚本賞などにノミネートされた。公開時は近未来サスペンスであったが、その後間もなく、スリーマイル島の原発事故が発生し、予見したようなそのタイムリー性が評判となった。

資本の論理を追求する巨大企業と社会正義。電力会社は大スポンサーである為、原発批判はタブーと言うのが、一般的マスメディアの秘められた約束事だったという構図は、アメリカでも日本でも同じだったようで、DVDをレンタルしてきて30年ぶりに観たが、今観ると 福島原発とどうしても重なって見えてしまうのである。それだけ今日性のある映画だったということである。

人気TVキャスター、キンバリーはカメラマンのリチャードと、原子力発電所の取材中に恐るべき 「事故」を偶然フィルムにおさめる。しかし、TV局は何故か放送を禁止してしまう。、その「事故」に疑問を抱くベテラン原発技術者のジャックは何者かに命を狙われはじめる。そして彼らはそれぞれの立場から、背後にうごめく巨大な陰謀に迫っていく…。

チャイナ・シンドローム コレクターズ・エディション [DVD]

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント



今回の事故で、原発批判のタブーが解けたのか、マスコミでも一斉に反・脱原発の論調が高まってきた感があるが、脱原発に踏み出す後押しをして欲しいなら、広瀬 隆/FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン (朝日新書) 、武田邦彦/原発大崩壊!(ベスト新書)小出裕章/原発のウソ(扶桑社新書)あたりがおすすめか・・。

このブログでも、原発の現場で20年間技師をし、内部被曝を100回以上して、癌で1997年他界した「平井憲夫」さんの論文「原発がどんなものか知ってほしい」を紹介したが、同じように、美浜、福島第一、敦賀の三つの原発現場で下請けとなって働いた人の貴重なルポルタージュがある。「堀江邦夫/原発労働記 (講談社文庫)」。「これでは事故が起きないほうが不思議だ」と空恐ろしくなってしまう。

原発労働記 (講談社文庫)

堀江 邦夫 / 講談社



豊かな暮らしとは何か? 効率や便利さとは何か? 危機における政治の役割とは? 時には牙をむく自然と日本人は今後どう付き合っていくのか? そんな根源的な問いを各自が自らに問いかけながら、日本人の選択を政治に反映させ、エネルギー選択を含め、将来の世代に何を残すかを長期的な視野で考え、向かうべき方向を選らばなくてはならない。そしてその「新しい国づくり」を何十年も試行錯誤しながらも、継続的に続けていかなくてはならない。一時の時の政権や政権奪取ゲームに現を抜かす政治屋なんぞには惑わされずに、国民全体の知恵を結集して、この大きな課題を解決していかなくてはならない。いまだ糸口も見出せないそんな思いを抱きながら、今日も山に遊ぶ。

東北の人たちは、太古からその恐ろしさも含めて、自然と上手に付き合ってきたはず。その証と見返りとしてあの豊かな自然が残されてきたのだが ・・・。

原始の黎明期への復帰、自然への回帰をテーマにし、自然主義派とでもよぶのがいいようなJAZZアーティスト達(JAZZというカテゴリーに当てはめていいのか疑問ではあるが・・)がいる。「エグベルト・ジスモンチ/Egberto Gismonti」、「ヤン・ガルバレク Jan Garbarek」などドイツのECM(Editions of Contemporary Music)というレーベルにそんなアーティストが多いようである。「ヨーロピアン・カルテット」時代の「キース・ジャレット/Keith Jarrett」をあげていいかもしれない。

「北欧のコルトレーン」と呼ばれる、ジャズSAX奏者「ヤン・ガルバレク/Jan Garbarek」のアルバムに「Dis」という作品がある。12弦ギター奏者の「ラルフ・タウナー/Ralph Towner 」とのコラボの、このアルバムのいくつかの曲のバックには、風によって弦が鳴るという楽器、ウィンドハープの音が使われている。ノルウェーの「スヴェール・ラーセン/Sverre Larsen」という人が製作したものを、実際にノルウェーの海岸に設置して録音したという。

Dis

Jan Garbarek with Ralph Towner / Polygram



通奏低音のように響くプロペラ飛行機あるいは蜂の羽音も似たブーンという音がウィンドハープ。音源の位置が特定できず、空間全体が響いているようだ。風のハープ(Windharp)、笛(Wood Flute)、12弦ギターとが織り成す不思議な音空間。そういえば、ノルウェーからデンマークにかけての北欧の海沿いにはこの風を利用した無数の風力発電機が回っていたのを思い出した。

「Jan Garbarek - Dis」

     
 
 
 
by knakano0311 | 2011-06-05 10:11 | 想うことなど・・・ | Comments(0)
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