「2002年9月13日。私は「グラウンド・ゼロ/Ground ZERO(爆心地)」の現場に立っていた。あの「9.11」からちょうど1年目、前々日に行われた1周年のセレモニーによる厳戒態勢の余波の残るニューヨーク、マンハッタン、ワールド・トレード・センターの跡地。TVなどではわからないが、周辺の道路は、記念品、お土産を売る露店で一杯であったが、グランド・ゼロの現場だけは静謐な祈りの空間に包まれていた。・・・・・・・」
「USA・JAZZY紀行 (1) ~グラウンド・ゼロ から~」は、こんな書き出しで始めた。そして、そのグラウンド・ゼロに立ちすくんでいた私の耳には、「スティング/Sting」の「フラジャイル/Fragile」が聴こえていた。「Fragile;こわれやすい、脆(もろ)い、儚(はかな)い」。よく、輸送品の段ボール箱の表面に「取り扱い注意」の英語表示として、印刷されている言葉である。そういう意味と、そのメロディの美しさから、漠然とこの歌は「恋の儚さ」を歌った歌であると、ずっと思っていた。ところが、9.11直後に発売されたアルバム「・・・オール・ディス・タイム」で、「フラジャイル/Fragile」が反戦・反暴力の歌と初めて知った。
9.11の当日、スティングは、イタリアのトスカーナにある自宅の中庭でライブ・コンサートをして、それをレコーディングすると同時に全世界へそのライブ映像を配信するという計画を立てていた。その日、ライブ直前の同時多発テロだった。スティングは、いつもはアンコールで歌う、「フラジャイル」を一番最初に演奏し、その1曲のみを犠牲者への哀悼としてWEB配信をし、その後、その夜のライブは、「哀悼ライブ」としての意味でのみ続けられたそうだ。その日のコンサートのライブ・アルバムとしてリリースされたのが、「・・・オール・ディス・タイム」である。
・・・オール・ディス・タイム
スティング / ユニバーサルインターナショナル
ISBN : B000AA7BES
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ジャケットの見開きに彼自身の哀悼の言葉が刻まれ、スティング作詞作曲の「フラジャイル/Fragile」1曲だけの歌詞が犠牲者に捧げるために掲載されている。
「This album was recorded on September 11,2001 and is respectfully dedicated to all those who lost their lives on that day.」
「♪ もし鋼の刃が体に刺さり、血が流れたとしても
その血は夕陽の真っ赤な色に染まって乾いてしまうか
明日の雨が血の染みを洗い流してしまうだろう
でも我々の心に残った何かはいつまでも消えずに残るだろう
多分その最終的行為は、
暴力からは何も生まれないという長い間の論争に決着をつけ
怒れる星の下に生まれた人間たちに対しては、
なす術がないということになるかも知れない
我々がいかに脆くて儚い存在であるかを忘れさせないために
いつまでも雨は降り続くだろう
星が涙を流しているように 星が涙を流しているように
いつまでも雨は降り続くだろう
我々はどれほど脆い存在なんだろうか 我々はどれほど脆い存在なんだろうか♪」
9.11以後、よくなるどころか、テロも戦争も殺人や暴力事件も益々拡大している世界にあって、歌や音楽がそれを阻止できるとは決して思わないが、「Imagine」と同様、この歌に希望や祈りを託したくなる。
TVでは、佐世保で猟銃によって、また命が奪われたと報じている・・・・。
「Sting - FRAGILE」(Live in Italy on September 11, 2001 )