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大屋地爵士のJAZZYな生活

読むJAZZ(4)   ~ 鳥類学者のファンタジア ~

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このブログの読者「堅気の勤め人@横浜」さんから、「読むJAZZ」へのコメントを頂きました。それは、「奥泉光/鳥類学者のファンタジア」のおすすめであった。この本、たしか4年ほど前に買ったが、あまりの超長編(文庫本で約750頁ほど)のため、躊躇したまま本棚にしまい込み、すっかりその存在を忘れてしまっていた。氏のコメントでそのことを思い出し、早速読んで見たが、JAZZファンにとっては、実に面白い、まさに「読むJAZZ」に値する本であった。

まず「タイトル」からして、うれしい。JAZZファンなら、「鳥類学者」の「鳥」が、かのビ・バップの創始者「チャーリー・“バード”・パーカー」を指していることは容易に想像つくであろうし、主人公である女性JAZZピアニストの「フォギー」こと池永希梨子は、「バド・パウエル」を敬愛する「ビ・バッパー」を自認しているが故の「鳥類学者・・・」というタイトルであることも納得がいく。さらに、パーカーの曲に「鳥類学/Ornitholgy」と言う有名曲があり、タイトルにも三重の仕掛けが施されている。

ストーリーはといえば、フォギー・希梨子が国分寺のライブハウスで演奏中に、「柱の陰に誰かいる・・・」という不思議な感覚にとらわれ、1944年冬、ナチスの敗色濃厚なベルリンにタイム・スリップして大冒険が始まる。そして「フィボナッチ数列」、「オルフェウスの音階」、「ピタゴラスの天体」やら、キリストを刺したといわれる「ロンギヌスの聖槍」などが彩る、オカルト色一杯のファンタジーが展開される。やがて最後は、舞台は1945年のニューヨーク、ハ-レムのビ・バップ発祥の地といわれる伝説のJAZZクラブ「ミントンズ・プレイハウス」へと移り、マイルス・デイヴィス、セロニアス・モンク、マックス・ローチらが集う、ビ・バップが誕生するJAZZの歴史の瞬間に立会い、「フォギー」もセッションに参加し、最後はなんと「チャーリー・パーカー」の演奏を聴いて、JAZZの本質を確証し、気がつけば国分寺のライブハウスへ戻る・・・。 

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このブログでJAZZを文章で語ることの難しさと未熟さを痛感していたが、この小説を読むにいたって一層その想いが強まった。
いわく、「アイデアや閃きを間髪をいれず腕と指の動きにもたらす瞬発力は反復練習によってしか鍛えるしかなく・・・」といった音楽への姿勢や、「右手と左手の打鍵のずれでもってリズムをつくりだしながら・・・・」というようなライブハウスでの演奏の描写に生き生きとしたプレイヤーの内面が見事に描かれている。これも実際にJAZZバンドでフルートを演奏するという奥泉氏のジャズ感が随所に垣間見られる。終章「ミントンズ」でのビ・バップの立役者たちによる白熱のセッションの描写も、実際に演奏が眼前で展開されているかのような錯覚さえ覚える。
そして最後の解説は、あの「山下洋輔」。山下洋輔をして「この作品をジャズとジャズマンと柱の陰の聴き手への壮大なオマージュとして受け取る喜びを分かちあいたい。」と最大級の感謝と賛辞を贈らしめ、あまつさえ、主人公フォギーのバンドのテーマ曲である「Foggy’s Mood」を作曲・献曲させ、その楽譜が記載されている。
また、この曲は、奥泉光オフィシャルサイト「バナール主義」の作品リストで、本人のフルートを含むカルテットで聴くことが出来る。

国分寺のライブハウスから始まって、そこへ戻って終わるという、リアルタイムで言えばステージとステージの休憩のほんのつかの間の壮大なファンタジー、「鳥類学者のファンタジア」。山下洋輔氏も言っているように、「ただ一度のアドリブ・ソロの中に、プレイヤーたちはこれだけの夢を見ているのだ」というその壮大な夢とJAZZの本質に迫る「読むJAZZ」。これぞ、JAZZファンにおすすめの「読むJAZZ」書である。

鳥類学者のファンタジア (集英社文庫)
奥泉 光 / / 集英社
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チャーリー・パーカーに憧れてジャズ・ミュージシャンになったという、現代っ子「矢野沙織」のアルバムから。日本のハイティーンの女の子が、ニューヨークのJAZZクラブで,アルトサックスを絶好調で吹きまくるその痛快さ。これもある意味で、一夜の「鳥類学者のファンタジア」ともいえると思う。

PARKER’S MOOD~Live in New York
矢野沙織 / / コロムビアミュージックエンタテインメント
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「SAORI YANO - I Got Rhythm」  Live On 25th July 2005 At SMOKE Jazz Club, New York

          
by knakano0311 | 2008-02-29 00:15 | 読むJAZZ | Comments(0)
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