たった一枚のCD、そのCDにミュージシャンが年を重ねてたどり着いた境地が凝縮されているが故に、人をとりこにしてしまう、そんなCDがあります。私の場合、「ピエール・バルー」、「アンリ・サルバドール」、「コンパイ・セグンド」などがそうであった。この3人については、すでにバラバラにこのブログにとりあげているが、この「男唄に・・・」の最終回に取り上げるにあたって、あらためて要約し、再掲することにしました。
「ピエール・バルー/Pierre Barouh」。1934年パリ生まれ。クロード・ルルーシュ監督の映画「男と女」で、「アヌーク・エーメ」の夫役で(実生活でも実際に結婚したのだが)、劇中、ダバダバダ・・・で始まる有名なあのテーマ曲を歌っている歌手兼俳優といえばご存知であろう。当時初めて聴いたボサノバ、その新鮮な衝撃は今でも憶えている。それほど魅かれながらも、その後何故かあまりバルーの歌を聴くことはなかった。
その「ピエール・バルー」の新作が昨年発売された。そのアルバム・タイトルは「ダルトニアン(色覚異常者)」。実は私も「ダルトニアン」。小中学校のころの色覚検査で、いつでも引っ掛かっていた。実生活で特に不自由はなかったが、色覚検査表では、他人には見えるものが私には見えず、他人に見えないものが私には見えるので、自分でもいつも不思議に思っていた。
「色覚異常だから、肌の色で人種差別はしない」と語った彼の言葉に、強く惹かれて買ったこのCDには、9年間の間にポツポツと作り溜めた曲が17曲収められ、しかも録音はパリ/ヴァンデ/東京で1999年から2006年まで7年かかって、1枚の作品として完成させたという。統一的なテーマは特にないらしいが、73歳になる老境を迎えたバルーが、自らの過去を追想する曲が多く盛り込まれている。
「冬、深夜、街」などをモティーフにした愛のバラード「夜更けに」。現在の夫人に捧げたジョビンの名作「コルコヴァード」の仏語カヴァー、愛し合う男女でも同じ経験への記憶がまったく違うことを唄った「記憶」。彼の生き方をタイトルとして表わした「ダルトニアン」。敬愛するビリー・ホリディが唄ったJAZZスタンダード「ケアレス・ラブ」に自身が仏語詩をつけ、ホリディに捧げた「ビリー」。チャップリンの「モダンタイムズ」からの「ティティナ」、そして自身のカバー「ラスト・チャンス・キャバレー」。たしかに統一したテーマはないが、自分の歩んできた人生をいとおしむかのように歌う唄の数々。訳詩を見ながら、こんな唄が歌える彼の境地に共感し、うらやましくさえ思ってしまった。やはり、彼の人生にもストーリーがあったんだ。17篇の珠玉の彼の人生がつまった最新アルバム、そして少年のような目を持つ73歳のピエール・バルーの男唄にすっかり惚れてしまった。
「私は散歩者。世界中を漂い、歌で物語をつむぐ」と語るバルー・・・・・。
ダルトニアン(DVD付)
ピエール・バルー / オーマガトキ
バルーが詩をつけ「ビリー・ホリディ」に捧げた曲、「ビリー」。原曲は「ケアレス・ラヴ」というタイトルで知られている。
「Billie ( Careless Love ) -Pierre Barouh」
「アンリ・サルバドール/Henri Salvador」。1917年南米フランス領ギアナ、カイエンヌ生まれ。パリで音楽活動を続け、レジオン・ド・ヌール勲章受賞、日本で言えば、三波春夫か北島三郎のような存在だという。2008年2月13日、動脈瘤破裂のためパリの自宅で死去。90歳。そのことを知らずに、ジャケットの「伊達男ぶり」に惚れて、ついCD「サルバドールからの手紙」を買ってしまったが、この「手紙」がまさに彼の遺書となってしまった。
このアルバムが日本で発売された2001年時点で、彼は当時84歳だというからおどろきである。すべて未発表曲13曲で構成されているが、「ボクは昨日生まれ、今日生き、明日死ぬ」というポリネシアのことわざを大事に守って84年間生きてきた彼の一つの到達点、境地を示している。そのことは、「こもれびの庭に」、「眺めのいい部屋」、「人生という名の旅」、「毎日が日曜日」、「生きてるだけじゃ駄目なんだ」・・・・などの収録された曲のタイトルをみても強く感じることが出来る。私はフランス語は分からないので、訳詩に頼るしかその意味は理解できないのだが、一度聴いたら忘れがたい、深くて、渋い「男」の声によって語られる「人生の物語」である。
サルヴァドールからの手紙
アンリ・サルヴァドール / / EMIミュージック・ジャパン
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「Henri Salvador - Jardin d'Hiver(こもれびの庭に)」
JAZZギタリストでもある、「ライ・クーダー」が、キューバ音楽の伝説的なアーティストたちをドキュメンタリー映画としてまとめた「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」をみたのは、ヨーロッパからシカゴに向かう大西洋上の機内であった。この映画は、1932年ハバナに設立され、かってアメリカ資本が華やかなりし頃全盛期を迎えた、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」で活躍したミュージシャンたちと、今はもうすっかり老いてしまったが、150年の歴史のある「ソン」という音楽を、その後のキューバ革命の荒波をくぐってを守り続けてきたことを描いたドキュメンタリーである。帰国するなり、すぐCDを手に入れるほど魅せられたドキュメンタリー。革命の嵐を超え、自分たちの音楽を守り抜いてきた誇りと矜持に支えられ今でも現役のミュージシャンであり続ける伝説の老ミュージシャンたち。主役は89歳になるという「コンパイ・セグンド/Compay Segundo」。老いてはいるが、輝きを失っていないその魅力的な表情と歌の力。ここにも、かくありたいと思う「老い」の一つの到達点を見た思いがする。
ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ
ライ・クーダー&キューバン・ミュージシャンズ エリアデス・オチョア イブライム・フェレール コンパイ・セグンド ライ・クーダー マヌエル“プンティリータ”リセア ルベン・ゴンザレス / ワーナーミュージック・ジャパン
ISBN : B00005HGVA
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「
Buena Vista Social Club-Chan Chan」 ツア-ライブから
・・・ せめて生きたや 仁吉のように・・・・・。 (作詞;佐藤惣之助/人生劇場)