「ジョニー・ハートマン/Johnny Hartman」。1923年7月生まれ、1983年9月没、享年60歳。
ビロードのような独特の甘い声の持ち主。初めて知ったのは、学生時代のよく行ったグリルB軒のマスターMさんのすすめであった。今では私が癒される数少ない男性ボーカルである。しかし、シナトラやP.コモ、A.ウイリアムス.B.クロスビー、N.キング・コールなどのように世界的に超有名になることは決してなかった。JAZZ本で彼をとりあげられてすらいない場合もあるくらいである。映画「マディソン郡の橋」では、バックにこの人の歌がいくつか流れていましたね。監督「クリント・イーストウッド」はその理由を聞かれて、「私が彼を選んだのは、彼がメインストリームに受け入れられたことはなかったが、とても優れた歌手だったからだ」と、主人公の孤独なカメラマン、キンケイドとイタリアからアメリカにやってきたいわゆる戦争花嫁のフランチェスカ、許されぬ恋に落ちる二人のもつ「人生のアウトサイダー的背景にふさわしい歌手だ」と語る。
「Johnny Hartman - I See Your Face Before Me」
最初に「ジョニー・ハートマン」を知ったアルバムは、「ザ・ヴォイス・ザット・イズ」。先日、「60歳・・・聴きたい歌」で紹介したばかりのミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」の中で歌われる美しい唄「サンライズ・サンセット」が収録されているアルバムである。
。(「60歳過ぎたら聴きたい歌(18) ~Sunrise、Sunset~」参照) このアルバムを除いてハートマンがハートマンたるゆえんが分かるのは次の三枚であろうと思う。
「なに、近くまで来たんでちょっと寄ってみただけさ」と、別れた女性に強がりを言ったりする洒落っ気たっぷりの男心を歌ったタイトル曲「アイ・ジャスト・ドロップト・バイ・トゥ・セイ・ハロー」。収録曲には、おなじみ「シャレード」など実に雰囲気があって、まさに大人の男を感じさせるバラード集。イリノイ・ジャケーのサックスにも泣けるし、前掲「ザ・ヴォイス・ザット・イズ」と並ぶハートマンのベスト・アルバム。男の「渋さ」、「粋」、「洒落」を感じたいと思うなら、ぴったりのもっともハートマンらしさが出ているアルバムだ。イリノイジャケー、ケニーバレル、ハンクジョーンズなんて、プロデューサに喝采を送りたくなる玄人好みの最高のバックだ。
アイ・ジャスト・ドロップト・バイ・トゥ・セイ・ハロー
イリノイ・ジャケー ハンク・ジョーンズ ミルト・ヒントン ケニー・バレル ジム・ホール エルヴィン・ジョーンズ ジョニー・ハートマン / ユニバーサルクラシック
ISBN : B000793B9G
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「Johnny Hartman - In The Wee Small Hours Of The Morning」
そして、彼のハートウォームな人柄を味わいたければ、これ、1977年に来日した時のライブ盤。クラブ「サムタイム」でのくつろいだ雰囲気の中で、かれのMCの語り口、小粋にスイングするリズム、そしてあの「ビロードのような」といわれた低音の渋いヴォーカルの響き。これらすべてにかれの誠実で暖かな人間性が滲み出ている。この来日時、54歳でもう全盛期の声の輝きはやや薄れてきてはいるが、その枯れかたは見事で、「人生かく枯れたし」と思わせる名唱アルバム。
ライブ・アット・サムタイム
ジョニー・ハートマン / / アブソードミュージックジャパン
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そして最後は、「歴史的名盤」、「これぞ究極のジャズバラード集」とJAZZ本などで必ず称される、コルトレーンのサックスと、ハートマンのヴォーカルが美しく絡み合う、ジャズ・ヴォーカル・アルバムの傑作「ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン」。
激しく吹きまくるコルトレーンのイメージを一新したとも思えるが、成熟した雰囲気はハートマンのボーカルをよく引き立てて、まさにジャズの真骨頂の名盤。私はコルトレーンは「Ballads」など歌モノが好きですが、このアルバムでもハートマンと同じくらいよく歌うサックスで、何回聞いても飽きがこず、良さが深まっていきます。マッコイ・タイナーの控えめなピアノもいい。そしてハートマン、相変わらずのよく響く低音。艶といい、こもる情感といい、程よく震えるビブラートといい、最高のボーカルを披露してくれる。今聴いても一向に色褪せない名盤である。
ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン
ジョン・コルトレーン ジョニー・ハートマン マッコイ・タイナー ジミー・ギャリソン エルヴィン・ジョーンズ / ユニバーサルクラシック
ISBN : B00008KKTR
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「John Coltrane & Johnny Hartman - Dedicated To You」
ほら、男のJAZZボーカルも捨てたものではないでしょう。