大屋地爵士のJAZZYな生活

<   2009年 11月 ( 20 )   > この月の画像一覧

透明なノスタルジー

b0102572_11211061.jpg

母親のケアで1ケ月ぶりに訪れた故郷。先月のあの賑々しい収穫や鮮やかな紅葉の季節は、足早に去っていってしまったようだ。冬の到来を告げる鈍色の空。寒々しくなった葡萄畑や林檎畑には、一杯に実をつけた大きな柿の木が、採る人もなく打ち捨てられたように、ぽつんと立っていた・・・。この時期、市内を見下ろすなだらかな斜面に立っていると、唇が乾いていくのがよくわかる。空気が乾くので、一段と透明度が増し、日が翳ると急速に気温が下がってくる。やがて、空気中のわずかな水分が細かな結晶と化し、朝日にキラキラ輝くダイヤモンド・ダストをみることができる季節が近づいてくるのだ。

b0102572_1135155.jpg
街中の工藝店の棚に並んだ色とりどりのガラスを透してみた故郷の街並み。蔵通りやそこに居並ぶ店に、観光客的感慨を覚えている自分を感じると、もう私はこの街では異邦人なんだという想いが、強くよぎる。透明なノスタルジー・・・。b0102572_11375561.jpg



冬の時期に聴くと、故郷とイメージがダブってしまう曲の一つは、ピアノとベースのデュオ・アルバム「Milcho Leviev + Dave Holland/Up and Down」に収録されている「カヴァティーナ/Cavatina」。マイケル・チミノ監督、1979年公開の映画「ディア・ハンター」の中で使われたあの美しくも鮮烈な曲である。C.ヘイデンとK.バロンの名盤「Night & The City」と並ぶピアノ+ベースのデュオ・アルバムの傑作。「ミルチョ・レヴィエフ」は旧共産圏ブルガリア出身のクラシックにベースを持つ、JAZZピアニスト。東西冷戦のまっただ中、彼はJAZZのため、音楽のため家族も祖国も捨てて、1971年アメリカに渡った。雪の中を丘に向かって続く一本の道。ジャケットの絵もレヴィエフの心根を表しているようで私の好きな一枚。録音は1987年9月、東京サントリー・ホールでのライブ。

Up and Down
Milcho Leviev / M.a. Recordings
ISBN : B00000JKGS
スコア選択:

「milcho leviev - dave holland - cavatina」 
 
          
[PR]
by knakano0311 | 2009-11-29 15:14 | ふるさとは遠くにありて・・・ | Trackback | Comments(0)

おやじのモノ語り(10) ~紅いマフラー~

b0102572_14322833.jpg

さて、12月も近くなり、会社のOB会の忘年会やら新年会の案内が届くようになった。何人かの気のあった会社の仲間との交流を除くと、私はこのOB会というのが苦手で、未だに一度も出席をしていないのである。思い過ごしかもしれないが、お互いに現役時代のときの肩書きや関係が透けて見える会であるような気がしてならないのである。過去の肩書きで、気を使うのも、まして使われるのも真っ平ごめんなのである。定年でリセットした時点で、私の会社での資産(正も負も)は、すべて後輩に引き継いできたとおもっている。今は地域活動など新しい世界で、新しい仲間や人の輪を作っていきたいと思っている。その意味でも、もう過去のしがらみや人間関係からはフリーでありたいし、解き放なたれていたいと思うのは、少し子供じみた考えなのだろうか?

ただ一つ、毎年出席を楽しみにしているのは、12月に行われるヨット部のOB会である。ヨットは会社へ入ってから始めたスポーツで、30歳半ばくらいまでは海に出ていたであろうか。企業内のスポーツ部なので、勝つことが至上命令の大学の体育部ほどの厳しさは無かったが、それでも実業団のヨット選手権を目指してずいぶん練習に明け暮れた。この仲間たちが毎年定年を迎えてはOB会へ入ってくるが、還暦の祝いも込めて紅いマフラーを贈ることが慣わしとなっている。沈(ちん)もあった、瀬戸内海クルージングもあった、台風が近づく中を必死で帰港したこともあった、燃料切れで漂流をしかけたことも ・・・・。船を降りてもみんな変わらぬ仲間たち。その仲間がまたひとり、人生の一つの航海を終え、港へと帰ってくる。私は、紅いマフラーをして、いそいそと迎えに出かけるのである。「ようこそホーム・ポートへ」と・・・。


人生を航海になぞらえたような選曲で構成された名盤。「ハービー・ハンコック/処女航海」。

処女航海
ハービー・ハンコック / / 東芝EMI
スコア選択:

「Herbie Hancock - Maiden Voyage」

         

ヴィブラフォン奏者「ジョー・ロック」がリーダーとなり、「素顔のままで」や「やさしく歌って」などのヒット曲を小気味にスイングして聴かせる。タイトル曲「セイリング」にはじまり、「港の灯」で終わる小粋なアルバム。

セイリング
ジョー・ロック&ザ・ニューヨーク・カルテット / / エムアンドアイカンパニー
スコア選択:
[PR]
by knakano0311 | 2009-11-26 07:52 | 爵士定規 | Trackback | Comments(0)

自由のサイズ

b0102572_17101054.jpg

≪ 黒々と 舗道に延びし 我が翳(かげ)に 
       「汝(な)は自由か」と 
             問いかける秋   爵士 ≫





定年退職後しばらくたった頃、会社で2年ほど先輩だった方にお会いしたときに頂いた名刺には、肩書きが「自由人」とあった。実にさばさばとしたその人の物腰や前向きな姿勢に共感を感じ、私も完全リタイヤした4月以降、「肩書き」だけを真似をさせてもらっている。経済的制約、社会的制約、個人的制約など色々ある中での「自由」であるから、「たかが知れている」と言ってしまえば、その通りである。「したい時にしたいことをする、或いはできる」、「したくないことは極力しない」、そんな程度のささやかなサイズの自由。しかし、それが現役時代はなかなかできなかった。やっと無くなった会社の肩書きと、使えるようになった時間。新しくつけた肩書きは、できうる限りそれを大事に暮していきたいと願う、せめてもの意思表示である。

個人の自由度(モビリティと言ってもいいかもしれない)は、住んでいる街のサイズやロケーションと関係するのかもしれない。聴きたい音楽を好きなときに聞ける自由を始めとして、散歩、ウォーキング、自然、神社仏閣、歴史探訪、紅葉・櫻、おいしいもの、くつろげるカフェ・・・。歩いて、もしくはちょっと車ででかけることで手に入るJAZZYな今の暮らしは、今住んでいる街のロケーション抜きには考えられないからである。そして、やがて年とともに比率が高まってくるであろう不自由さを楽しく受け入れる心の準備はこれからであることも分かっている。


つきつめて考えると、究極の「自由」は「孤独」であるのかもしれない。ニューヨークという大都会に生きる孤独と自由。そんな都会人たちの哀愁を共感の眼差しで見つめたアルバムがある。「スザンヌ・ヴェガ/Suzanne Vega」の「Solitude Standing」である。カフェで出勤前のコーヒーを飲む女性の孤独な朝を鮮やかに切り取った、ア・カペラ「Tom's Dinner」。家庭内暴力を暗示するような都会の孤立を歌う「Luka」。アコースティックギターを手に歌う個性派シンガー・ソングライターとして注目を集めた彼女の歌には、ニューヨークの街角を背景に孤独と自由が織り込まれている。

Solitude Standing

Suzanne Vega / A&M



「Tom's Diner -Suzanne Vega」

          


そして、孤独と自由について考えさせられた最近の映画は「扉をたたく人/The Visitor」。
妻を亡くし、一人暮らしを続けている大学教授ウォルター。人生の目的を失い、教授の権威や肩書きにすがって、閉じこもって生きているかたくなな初老の男。ニューヨークの学会に代理で出席することになったところから彼の人生が動き出す。久し振りに訪れたNYの彼のアパートには、アフリカン・ドラム「ジャンベ」奏者のシリア人タリクとセネガル人のカップルが住んでいた。やがて彼の心の奥に潜んでいた音楽への欲求が目覚める。しかし不法滞在を理由にタリクは拘束されてしまう。数日後、タリクの母親モーナがウォルターを訪ねてくる。
人の自由と真剣に関わることは、自分の自由を取り戻すこと・・。そんなことを教えてくれる佳作。この映画は異なった文化や価値観を持つ人々との交流や連帯と、自由とは両立するのだということを教えてくれている。この映画の原題「The Visitor」とは、ウォルターのかたくなに閉ざした心を緩める訪問者である。そして、ウォルターは9.11以後、異文化、異民族に対し固く扉を閉ざしてしまったかのように見える「アメリカ」そのものの投影なのである。ラストシーン、一人で地下鉄のホームで無心でドラムを叩く彼の姿に、大切なものを失くして、再び孤独になってしまったが、自由と誇りを取り戻した男のエレジーを感じる。

扉をたたく人 [DVD]

東宝


[PR]
by knakano0311 | 2009-11-24 10:05 | 想うことなど・・・ | Trackback | Comments(0)

海なす朝霧 ・・・

起きると、夜来の冷え込みのせいか、辺り一面の霧。妻を起し、花山院へと車を走らせる。眼前に拡がる墨絵の絶景。標高わずか300mの山の麓は朝霧の海。しばし写真を撮るのも忘れて見とれる。早起きの眼福・・・。

b0102572_1135235.jpg


  「有馬富士 麓の霧は 海に似て 波かと聞けば 小野の松風」 (花山法皇)
  「山はみな離れ小島となりにけり  しばし海なす朝霧の上に」   (花山法皇)
[PR]
by knakano0311 | 2009-11-23 11:36 | おやじの遠足・街歩き | Trackback | Comments(0)

60歳過ぎたら聴きたい歌(46) ~とまどうペリカン~

b0102572_23443031.jpg

井上陽水のバラードが好きである。とりわけラブソングが好きだ。小田和正、吉田拓郎、加藤和彦、谷村新司、矢沢永吉、小椋佳・・・など、同世代の作詞作曲もするアーティストのなかで、「ラブソングは?」と問われれば、それはもうほとんど「井上陽水」なのである。シュールで、ちょっとアンニュイというか、けだるさも感じ、そしてなによりも切なくやるせない。

「沈みあうスピードで 指輪をなくすより 罪のほうが指にいいよ どんなにも見えるから (Final Love Song)」。「盗賊は夜を祝い君に歌わせ プリンセスからのながい恋文を待つ カナリア カナリア (カナリア)」。「チェックインなら 寝顔を見せるだけ 部屋のドアは 金属のメタルで (リバーサイドホテル)」。「出会いの場所は ホテルのロビー 目と目があって あいさつはなく 夜は始まり それが45分前 (背中まで45分)」。「風の便りの とだえた訳を 誰に聞こうか それとも泣こうか (いっそセレナーデ)」。

フレーズが脳髄をほんの軽く麻痺させる。誰しもが一度はあんな恋の世界を体験してみたいと思わせる「大人の童話」のようだ。彼のラブソングが紡ぎ出す恋の世界に魅かれ始めたのは、どの曲あたりからだっただろうか。彼のバックバンドを務めていた「安全地帯」に歌詞を提供した1983年の「ワインレッドの心」、同じく1984年の「恋の予感」、そして彼自身のヒット曲ともなった「いっそセレナーデ」あたりだっただろうか。そして1984年にリリースされたアルバム「Lion & Pelican」の一見奇妙なタイトルの「とまどうペリカン」が決定的にしたようだ。NHK「Songs」で歌う陽水を見て、一度憧れたあの「大人の童話」の世界にもう一度迷ってみたくなったようだ・・・ 。


 【 とまどうペリカン 】  作詞作曲;井上陽水

「♪ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  あなたライオン 金色の服
   その日暮らし 風に追われて
     あなたライオン 私はあなたを
       愛してとまどうペリカン    ♪」


歌詞はこちら。

          

陽水のヒット曲の軌跡が俯瞰できるアルバムは「GOLDEN BEST」。

GOLDEN BEST

井上陽水 / フォーライフ ミュージックエンタテイメント



洒落たジャズ・アレンジで、自作を全編セルフ・カバーしたアルバム「Blue Selection」。「飾りじゃないのよ涙は」のスピード感とかっこよさ。JAZZファンで陽水ファンなら聴くべしという他はない。まさに大人のアルバム。

Blue Selection

井上陽水フォーライフミュージックエンタテインメント



リバーサイドホテルのYOUTUBE

          
[PR]
by knakano0311 | 2009-11-22 09:23 | 60歳過ぎたら聴きたい歌 | Trackback | Comments(0)

ご近所の紅葉

我が家の近所はどこへ行っても紅葉一色 ・・・。

b0102572_1651852.jpg

            三田;西国三十三ヶ所観音霊場番外札所、花山院

b0102572_1662739.jpg

                    池田;太閤秀吉ゆかりの久安寺
[PR]
by knakano0311 | 2009-11-21 16:12 | 我が家の歳時記 | Trackback | Comments(0)

おやじのハコものがたり(7) ~出逢い橋、別れ橋~

b0102572_2347718.jpg

かって、実際にあった話を基にし、出逢いと別れを描いた「橋」がある。ベストセラー小説で、映画化もされた、ロバート・ジェームズ・ウォーラーの小説の「マディソン郡の橋」である。この小説は、クリント・イーストウッドによって映画化もされた。屋根付きの橋を撮影に来た写真家キンケイドと、イタリア出身でその土地で暮している主婦フランチェスカとが激しい恋におち、別れ、死ぬまで秘めたその恋の4日間を描いた話である。その橋は、アイオワ州マディソン郡に実在した橋であるが、話題になった後、たしか火災によって焼失してしまったと記憶している。

そんな屋根付きの橋が日本にもあるという。しかも八つもかたまって・・・。そんな記事を新聞か雑誌かなにかで読んだ。調べると、愛媛県の山間の村、大洲市河辺町にある。御幸の橋、三嶋橋、豊年橋など八つの橋で、「浪漫八橋」と名づけられているそうである。床板を雨露から守り、長持ちさせたいという村民の願いがこめられ屋根がつけられたとも言われ、屋根があることにより、橋は小さな集会所としても利用されているという。
この橋が屋根を持ったのは、村人の智恵の結果なのである。お上が作ってくださるいわゆる「ハコもの」の橋ではないのだ。きっと味わいがあって、美しいだろうな。この橋も、きっと様々な出逢いや別れを生んだに違いない。機会があればぜひ観てみたいと強く思うのだ。

b0102572_15201067.jpgb0102572_15203981.jpg

b0102572_15205444.jpg
                  (写真河辺町ふるさとの宿HPより)

写真上左;御幸の橋(愛媛県指定民俗文化財)。安永2年(1773年)に架設。ケヤキ材使用、屋根スギ皮葺きでクギは一切使われていない。橋長8.3m、幅員2.7m、木橋、歩行者専用。
写真上右;三嶋橋。大正12年(1923年)架設。三嶋神社の神様への信仰心をあらわすため、屋根をつけたといわれている。橋長14.8m、幅員2.6m、木橋、歩道橋、屋根スギ皮葺き。
写真下;豊年橋。昭和26年8月(1951年)架設。河辺川に架かっていた木橋の屋根付き橋が、取り壊されることとなり、屋根付き橋の材料を住民が譲り受け小川に移設したもの。橋長3.3m、幅員1.8m、木橋、歩道橋、屋根トタン葺き。

日本のあちこちに、権力や国、お上が作ったものではなく、地域の生活に根ざした中から生まれたこのような独特の建築が、まだまだたくさん残っているのではないだろうか。


秋の夜長、一夜を悲恋の物語で涙にくれてみたい方、「マディソン郡の橋」の小説を読み、DVDを観、全編レトロなJAZZが流れていたサウンドトラック盤に身を任せるのもいいかもしれませんね・・・。

マディソン郡の橋 (文春文庫)

ロバート・ジェームズ ウォラー / 文藝春秋


マディソン郡の橋

ワーナー・ホーム・ビデオ


The Bridges Of Madison County: Music From The Motion Picture

Original Soundtrack / Warner Bros.



「Love Theme (Doe Eyes), The Bridges of Madison County」

          

追記)12月6日に放映されたNHKドラマ「坂の上の雲」(第2回)のなかで、八橋のひとつ「帯江橋」が正岡家の近くの橋という設定で使われていました。
[PR]
by knakano0311 | 2009-11-21 09:10 | おやじのハコものがたり | Trackback | Comments(0)

ごぶさたのいもたこなんきん 

b0102572_1631599.jpg

妻に誘われて、趣味を通じての妻の友達の「絵手紙」の展示会を見に行ってきました。女性10人ぐらいのサークルで楽しんでいるとのこと。「絵手紙」というのは、「絵葉書」とは少し違って、葉書などに、そのときの季節感や心情を簡単な詩画に描いて送るものらしい。図書館のホールに展示してあったその作品からは、主婦や女性らしいこまやかな感性が感じられました。そういえば、かっての上司の趣味が絵であり、定年後、旅した異国の場所スケッチした水彩をいくつかもらったことがある。そして、現役時代に時折利用していた割烹の女将から、自らの筆で、季節の食材を描いた「絵手紙」の案内をずっともらっていた。その絵があまりにも素晴らしいので、気に入って残してあったのを思い出した。写真の夥しい「絵手紙」がそれである。その女性は、割烹の女将をしながら、ソムリエの資格も取り、自ら欧州へワインの買い付けに走る。その上に、こんな絵も描くというその多才ぶりに大変感心した女性。大胆な構図、ダイナミックな色使いとユーモア溢れる食材の姿が実に楽しい。もはや余技を超えているような気もするのだが・・・。

b0102572_16545223.jpg

我々夫婦は、子供達に編み物や工作、遊びなどを教えているボランティアに参加しているのであるが、編み物への子供達の興味をおこさせるための見本として、妻が作った最近の作品の一つである。そのいくつかは、それを気に入ったお嫁さんに差し上げたりしているようであるが、この熊は、作った本人が大のお気に入り。「絵手紙」にしろ、「編み物」にしろ、何かの趣味に一生懸命、夢中になっている人を見るのは楽しい。
ひさしぶりの「いもたこなんきん」レポートでした。


最近家事の最中も、繰り返し流れているアルバムは「鈴木重子/Silent Stories」、「英珠/Songs」、「noon/Smil'n」など、まったり系の音楽。冬の気配が感じられるほど冷え込んできた最近の日々。午後のお茶の時間に、こんなBGMが流れていると話が弾むかもしれません。

サイレント・ストーリーズ

鈴木重子BMG JAPAN



Songs

英珠 /



「Black Orpheus - Shigeko Suzuki」

           
[PR]
by knakano0311 | 2009-11-20 00:05 | いもたこなんきん | Trackback | Comments(0)

あなたに似た人

ボージョレ・ヌーヴォー解禁の日が近づいてきた。毎年11月の第3木曜日に解禁される、その年のブドウの出来栄えをチェックすることを目的とした新酒をボージョレ・ヌーヴォー(Beaujolais nouveau)というそうだ。私はワイン通でもグルメでもありませんが、世間が大騒ぎするこの時期には、いつもある短編小説を思い出す。「ロアルド・ダール」の「あなたに似た人」の冒頭に収められている「味」という短編である。

ワイン通を自認し、自慢のワイン・コレクションを鼻にかけている金持ちの晩餐会。その席で、これまたワイン通を辞任する客が、食卓のグラスの珍しいワインの銘柄を当てることができると言い出した。客は金持ちの虚栄心を巧みにくすぐり、彼のコレクションのワインの銘柄、醸造年をあてる賭けにと誘い込む。賭けの対象は金持ちの娘との結婚と自分の家・・・。グルメを気取る人たちのもつある種のいやらしさを見事に描いた短編である。げに恐ろしきは美食家なりや・・・。  

あなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 22-1))

ロアルド・ダール / 早川書房



ところで、ミシュランのガイドブック、京都・大阪編が発刊されたという。あの日本料理の発祥、原点であり、座敷の空間から庭、照明などの一つ一つに至るまで心を配る、誇り高き京都の料理屋などは、他人、しかも外国のタイヤ会社なんぞに評価されることを嫌い、無視するであろう。そして大阪は「お好み焼き」や「たこ焼き」、「うどん」に代表される「こなもん」と「関東(かんと)煮き」、「すじ肉」、「くしカツ」などのB級グルメが庶民の主流の世界。そんなガイドブックが出ようが出まいが、味/値段の価値が重要な大阪人にとって、これまた、左右されることはまったくないであろう。まあ、東京のお金持ち、社用族の世界の話と思いたい。

ミシュランガイド京都・大阪 2010 日本語版 (MICHELIN GUIDE KYOTO OSAKA 2010 Japanese)

日本ミシュランタイヤ株式会社



さて、ワインの話であるが、多分「赤玉・・・」の影響であろうが、正直に言ってあの甘ったるさが、かっては嫌いであった。ところがワインのおいしさをドイツで初めて知って、好きになったのだ。前回のブログにも書いた技術導入のためのドイツ出張での話である。私の出張が心配になったのか、技術担当の役員が陣中見舞いにドイツまで来たのである。当然会社トップ同士の会食が持たれ、私もお相伴する事になったのだ。季節は5月。旬でステーキより高いといわれる最高級のホワイト・アスパラガスがメイン、それに銘柄などは覚えていないが、美味この上もなかったネッカ・ガウの白葡萄酒が出たのだ。初体験であった。  
そしてその次の日のことである。当時の相手会社の社長は弱冠17歳で大学へ進学、それがドイツでの最年少大学入学記録だというS社長。多分30代後半であったかと思うのだが、居並ぶグループ親会社のトップと客との会食の席で、そのS社長がどの銘柄のワインを選んだかということが話題になり、「さすがS社長」という賞賛の声が社内で上がっていたことにびっくりした。かの国ではワイン選びに男としての人格、識見、価値が問われるのだ。

日本は、とりあえずビールという世界。最近でこそ、食事の時、その場に合わせて正しい日本酒が選べることが「できる男」の条件などと、特集記事などが組まれているが、そこまでこだわらなくとも、せめて自分の飲む酒くらいは、自分の価値観で選びたいものだ。「お前は?」ってか。いまは糖質ゼロの発泡酒なんぞでお茶を濁している、かっての飲んだくれの成れの果てでございまする。そう、あなたに似ているかもしれませんね・・・。

そのタイトルとメロディから、ロマンティックな雰囲気が漂うが、実はアルコール依存症との戦いを描いた映画「酒と薔薇の日々」の主題歌である同名の曲を名盤2枚から・・・。

We Get Requests

Oscar Peterson / Verve



シングス・バラッズ(XRCD)
ローズマリー・クルーニー ウォーレン・バシェ スコット・ハミルトン エド・ピッカート ジョン・オッド チャック・イスラエル ジェイク・ハナ / ビクターエンタテインメント
ISBN : B0001ZX2D6
スコア選択:

「The Days of Wine and Roses - Rosemary Clooney」

          





  
[PR]
by knakano0311 | 2009-11-18 09:35 | 音楽的生活 | Trackback | Comments(0)

もう一つの20年 ~Herr.Sommer の思い出~

b0102572_10184217.jpg
東西ドイツを隔てていた冷戦の象徴、ベルリンの壁が崩壊してから9日で20年たったとNEWSが報じている。「ベルリンの壁」と聞くと、思い出す人がいる。ソマーさんである。私が西ドイツ・ハイデルベルグの街に技術導入のため、出張したのは、1978年5月、32歳の時であった。今から31年前のまだ冷戦の時代、ちょうど成田空港の開港直前で、羽田からアンカレッジ経由でヨーロッパへ飛び立った。(参照欧州JAZZY紀行(1) ~ハイデルベルグ わがプロジェクトX~」 

そのときの相手会社の渉外の担当者がソマーさんであった。たしか私より10歳くらい年長で、黒ぶちめがねで温和な人柄のドイツ人。当時は、FAXも携帯電話もインターネットない時代、遠い極東からはるばる来た私を親身になってサポートしてくれた。趣味はガーデニングと家作り。ドイツでは自分で家を立てることが可能なそうで、自ら整地をしている建築予定地に案内してもらったことをおぼえている。こちらも気兼ねをして、分断された東西ドイツの話題には触れないようにしていたのだが、コミュニケーションを重ね、だんだん親しくなるうちに、ある時、酒場でビールを飲んでいる時に、自然とその話題になった。

東西ドイツの国境地帯には、鉄条網で囲まれた緩衝帯が設けられ、地雷が埋まっているという。夜になると、巣穴から這い出してきたウサギが地雷に触れ、爆発する音が、まるで花火か爆竹のように、夜空に響くそうである。なんとも悲しくて残酷なファンタジーのような話であった。そしてさらに、こんなことをポツリともらしたのだ。「実は、東ベルリンから西ベルリンに脱出してきた。その脱出に関わった人が、まだ東側で暮しているので、詳しくは話せないのだが・・・」と。そのときばかりはあの温和な表情のソマーさんの顔が一瞬厳しくなったのを覚えている。

b0102572_1026112.jpg
そんな話を聞きながら、島国日本で育ったので、それまでは国境なんて意識していなかった私も欧州へ出張してみて、国境の持つ意味、東西冷戦の実態がすこし理解できるようになったのだ。そういえば、こんなこともあった。相手会社の社員達何人かと、フランスはストラスブール近くにあるオーバーナイという小さな村にある子会社の工場を、レクリエーションをかねて訪問しようということになり、私はソマーさん家族の車に乗ってフランスへと向かった。 シュバルツ・バルド(黒い森)を抜け、独仏国境へさしかかったが、フランス側で私の入国許可が出ない。国境で足止めを食らったのだ。当時、日本赤軍が欧州でも活発に活動しており、この検問所をとおる日本人は珍しかったため、パリの本庁へ私の身許の確認を行っていたらしい。1時間ほどの足止めで無事入国許可が出たのは言うまでもないが・・・。

ソマーさんは今はどうしているのだろうか。転職したとのうわさを大分前に聞いたことがある。あの出張から11年後のベルリンの壁の崩壊を聞いたときも、それからさらに20年たった今も、あのとき一瞬見せたソマーさんの厳しい表情が眼に浮かんだ。

2007年アカデミー賞外国語映画賞を受賞した第一級のサスペンス映画は、「善き人のためのソナタ」。舞台は東ベルリン、時は1984年。反体制派の劇作家と女優を監視する国家保安省シュタージのゲルド・ヴィースラー大尉。反体制的であるという証拠を掴むため監視を始めるが、次第に彼らの世界に魅入られていく…。 ベルリンの壁崩壊前の東独における自由への希求と弾圧と人間性を描いたヒューマンドラマでもある。

善き人のためのソナタ スタンダード・エディション [DVD]

アルバトロス


007ジェームズ・ボンドのようなスーパーマン的スパイ活劇ではなく、冷戦時代下のリアルなスパイを描いて圧倒的な人気を得た作家が「ジョン・ル・カレ」。その後のシリアスなスパイ像を描いた先駆け的な作品となったのが「寒い国から帰ってきたスパイ」。英国におけるミステリーの頂点、「CWA(英国推理作家協会)賞」の’63年度、ゴールド・ダガー賞(最優秀長編賞)と、アメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」の両方を受賞したスパイ小説の金字塔。

寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)

ジョン・ル・カレ / 早川書房



寒い国から来たJAZZマン、かっての共産圏出身のJAZZアーティストの活躍も最近目覚しい。かの澤野工房が発掘した、ロバート・ラカトシュ、ウラジミール・シャフラノフ、ティティアン・ヨーストなどがその代表である。旧東側のJAZZアーティストの先駆者的存在であるシャフラノフが一躍日本で有名になったアルバムをあげておこう。ウラジミール・シャフラノフ(Vladimir Shafranov)。ロシア生まれであるが、現在フィンランドに住まいを持っての悠々の活動を展開している。その幻の名盤といわれたアルバムを復刻したのが「White Nights」。全体的には、落ち着いたやや地味な印象ではあるが、タイトル曲の「White Nights」はその透明感といい、哀愁といい、際立っている。

b0102572_23363350.jpg
White Nights/Vladimir Shafranov


 
  
 
 
「White Nights - Vladimir Shafranov」

         
[PR]
by knakano0311 | 2009-11-16 09:44 | 想うことなど・・・ | Trackback | Comments(0)