人気ブログランキング | 話題のタグを見る

大屋地爵士のJAZZYな生活

60歳過ぎたら聴きたい歌(41) ~ I'm A Fool To Want You ~

60歳過ぎたら聴きたい歌(41) ~ I\'m A Fool To Want You ~_b0102572_13451792.jpg
もう遥かな昔になるが、二十代の頃、初めて深く心が傷ついたとき、一晩中、同じ歌を何回も聴いていた記憶がある。なんの歌だったかは、もう記憶の底に沈んでしまって、もはや思い出せないのですが・・。貧乏だったが、まだ青くて若くて多感で、夢や野心があって、傷つけることも、傷つくことも恐れていなかったが、あの時の、ただただ切なかった自分を、想いだして懐かしむために、今でもときどき秋の夜更けなどに聴く歌がある。その歌は、「チェット・ベイカー/Chet Baker」が歌う「I'm a fool to want you」。

この歌は、ジョエル・S・ヘロンが作曲し、ジャック・ウルフとフランク・シナトラが作詞したもので、1951年に「フランク・シナトラ」が歌って発表され、ヒットしたスタンダード曲。

【 I'm a fool to want you 】 作詞;Jack Wolf & Frank Sinatra 作曲;Joel Herron

「♪ I'm a fool to want you
   I'm a fool to want you
   To want a love that can't be true
   A love that's there for others too

   I'm a fool to hold you
   Such a fool to hold you
   To seek a kiss not mine alone
   To share a kiss the devil has known

   Time and time again I said I'd leave you
   Time and time again I went away
   Then would come the time when I would need you
   And once again these words I'd have to say

   I'm a fool to want you
   Pity me, I need you
   I know it's wrong
   It must be wrong
   But right or wrong
   I can't get along
   Without you    ♪」

「♪ こんなに君を恋焦がれるなんて愚かな僕
   そう、君を求める愚か者さ
   決して実を結ぶことがない恋を求めるなんて
   他のだれかを愛しているかも知れない君に恋するなんて   

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   こんなに君を恋焦がれるなんて愚かな僕
   こんなに君を必要とする僕を哀れんでくれよ
   間違っているのはわかっているさ、きっと間違っているに違いないよ
   しかし、正しいにせよ、間違っているにせよ
   僕は君なしでは生きていけないんだ・・・    ♪」

60歳過ぎたら聴きたい歌(41) ~ I\'m A Fool To Want You ~_b0102572_17321420.jpg

あの傷ついた二十代のとき、この歌を知っていれば、きっと一晩中、聴きつづけていたに違いない。トランペッターにして恋唄唄い、「チェット・ベイカー」の「Love song」というアルバムに収録されている「I'm a fool to want you」。ホテルの窓から転落して死ぬ2年前の1986年、アムステルダムでの録音である。生涯麻薬と酒から脱却することができなかった破滅的白人JAZZマンの代表格みたいな男だが、その声のもつ毒に痺れ、その毒が今でも後遺症のように私には残っているようだ。だから、いまだにこの歌は私を泣かす。辺見庸は、月刊「プレイボーイ」誌2008年8月号でチェットの歌う、「I'm a fool to want you」についてこんな風に語っている。

「老残のチェットが血涙をしぼるようにうたい、吹くとき、もらい泣きをしない者がいるとしたら、たしかに人非人にちがいない。・・・・ここに疲れや苦渋があっても、感傷はない。更正の意欲も生きなおす気もない。だからたとえようもなく切なく、深いのである。そのようにうたい、吹くようになるまで、チェットは五十数年を要し、そのように聴けるようになるまで、私は私でほぼ六十年の徒労を必要としたということだ。・・・・ 徹底した落伍者の眼の色と声質は、たいがいはほとんど耐えがたいほど下卑ているけれど、しかし、成功者や更正者たちのそれにくらべて、はるかに深い奥行きがあり、ときに神性さえおびるということなのだ。」

ラヴ・ソング

チェット・ベイカー / BMG JAPAN



もう晩年のチェット。1987年というから死の1年前。老残と鬼気と神聖とが表裏一体になって迫る ・・・・。
「Chet Baker - I'm a Fool to Want You (Paris,November,1987)」  Film:"Chet's Romance" by Bertrand Fèvre.

          

この「I'm a fool to want you」を聴いたら「鳥肌もの」という、もう一枚のアルバムがある。「ビリー・ホリディ」。アルバムは「レディ・イン・サテン」。このアルバムも、亡くなる前年の1958年の録音。体はぼろぼろで、声は衰え痛々しいほどだが、気力をふり絞って歌う。これはもう執念としかいいようがない。死を目前した超新星のような一瞬の輝きか残照か。しかし、「恋は愚かというけれど」という邦題では、この歌の持つ深いせつなさや哀しみは表わせない。

レディ・イン・サテン+4

ビリー・ホリデイ / ソニーレコード



「Billie Holiday- I'm a fool to want you」

          
by knakano0311 | 2009-09-15 09:37 | 60歳過ぎたら聴きたい歌 | Comments(0)
<< キタイ?ギタイ?△×◆ JAZZ的トリビア(9) ~ ... >>