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大屋地爵士のJAZZYな生活

自由のサイズ

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≪ 黒々と 舗道に延びし 我が翳(かげ)に 
       「汝(な)は自由か」と 
             問いかける秋   爵士 ≫





定年退職後しばらくたった頃、会社で2年ほど先輩だった方にお会いしたときに頂いた名刺には、肩書きが「自由人」とあった。実にさばさばとしたその人の物腰や前向きな姿勢に共感を感じ、私も完全リタイヤした4月以降、「肩書き」だけを真似をさせてもらっている。経済的制約、社会的制約、個人的制約など色々ある中での「自由」であるから、「たかが知れている」と言ってしまえば、その通りである。「したい時にしたいことをする、或いはできる」、「したくないことは極力しない」、そんな程度のささやかなサイズの自由。しかし、それが現役時代はなかなかできなかった。やっと無くなった会社の肩書きと、使えるようになった時間。新しくつけた肩書きは、できうる限りそれを大事に暮していきたいと願う、せめてもの意思表示である。

個人の自由度(モビリティと言ってもいいかもしれない)は、住んでいる街のサイズやロケーションと関係するのかもしれない。聴きたい音楽を好きなときに聞ける自由を始めとして、散歩、ウォーキング、自然、神社仏閣、歴史探訪、紅葉・櫻、おいしいもの、くつろげるカフェ・・・。歩いて、もしくはちょっと車ででかけることで手に入るJAZZYな今の暮らしは、今住んでいる街のロケーション抜きには考えられないからである。そして、やがて年とともに比率が高まってくるであろう不自由さを楽しく受け入れる心の準備はこれからであることも分かっている。


つきつめて考えると、究極の「自由」は「孤独」であるのかもしれない。ニューヨークという大都会に生きる孤独と自由。そんな都会人たちの哀愁を共感の眼差しで見つめたアルバムがある。「スザンヌ・ヴェガ/Suzanne Vega」の「Solitude Standing」である。カフェで出勤前のコーヒーを飲む女性の孤独な朝を鮮やかに切り取った、ア・カペラ「Tom's Dinner」。家庭内暴力を暗示するような都会の孤立を歌う「Luka」。アコースティックギターを手に歌う個性派シンガー・ソングライターとして注目を集めた彼女の歌には、ニューヨークの街角を背景に孤独と自由が織り込まれている。

Solitude Standing

Suzanne Vega / A&M



「Tom's Diner -Suzanne Vega」

          


そして、孤独と自由について考えさせられた最近の映画は「扉をたたく人/The Visitor」。
妻を亡くし、一人暮らしを続けている大学教授ウォルター。人生の目的を失い、教授の権威や肩書きにすがって、閉じこもって生きているかたくなな初老の男。ニューヨークの学会に代理で出席することになったところから彼の人生が動き出す。久し振りに訪れたNYの彼のアパートには、アフリカン・ドラム「ジャンベ」奏者のシリア人タリクとセネガル人のカップルが住んでいた。やがて彼の心の奥に潜んでいた音楽への欲求が目覚める。しかし不法滞在を理由にタリクは拘束されてしまう。数日後、タリクの母親モーナがウォルターを訪ねてくる。
人の自由と真剣に関わることは、自分の自由を取り戻すこと・・。そんなことを教えてくれる佳作。この映画は異なった文化や価値観を持つ人々との交流や連帯と、自由とは両立するのだということを教えてくれている。この映画の原題「The Visitor」とは、ウォルターのかたくなに閉ざした心を緩める訪問者である。そして、ウォルターは9.11以後、異文化、異民族に対し固く扉を閉ざしてしまったかのように見える「アメリカ」そのものの投影なのである。ラストシーン、一人で地下鉄のホームで無心でドラムを叩く彼の姿に、大切なものを失くして、再び孤独になってしまったが、自由と誇りを取り戻した男のエレジーを感じる。

扉をたたく人 [DVD]

東宝


by knakano0311 | 2009-11-24 10:05 | 想うことなど・・・ | Comments(0)
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