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大屋地爵士のJAZZYな生活

ふるさとエレジー(4) ~ 民芸館に憩う ~

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私の実家のすぐ近くに「松本民芸館」がある。近いので帰省したとき時々寄ることにしているが、今回は、「山里の民芸 ざる・かご展」が展示されていたので、訪れてみた。

この「松本民芸館」は、現在は松本博物館の付属施設となっているが、松本市内の中町で「ちきりや」という工芸品店を営んでいた「丸山太郎」氏が、柳宗悦の民芸運動に共鳴し、「無名の職人たちの手仕事で日常品」であるものに美を感じ、蒐集した数々のいわゆる民芸品を展示した、いわば個人の情熱によって建てられた民芸館です。現在は周りに住宅が建て混んできたが、昭和37年(1962年)の創館当初は、回りになにもなく田んぼの中に雑木林に囲まれて、ぽつんと立つ、なまこ壁の美しい蔵作りの建物であった。高校生であったこのころ最初に行ったように記憶している。

「美しいものが美しい
 では何が美しいかと申しますと 
 色とか模様とか型とか材料とか色々あります
 その説明があって物を見るより無言で語りかけてくる物の美を
 感じることの方が大切です
 何時何処で何んに使ったかと云うことでなく
 その物の持つ美を直感で見て下さい
 これはほとんど無名の職人達の手仕事で日常品です
 美には国境はありません 」   丸山 太郎


日本各地に残る美しい手仕事を紹介しながら、日本がすばらしい手仕事の国であることへの認識を呼びかけた「柳 宗悦」のユニークな民芸案内書。

手仕事の日本 (岩波文庫)

柳 宗悦 / 岩波書店



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「丸山太郎」氏が蒐集した多岐にわたる編組品を展示した企画展。運搬や収納、食器など生活の必需品であるざるやかごなどの製作は、主に農家などの副業として行われることが多かったようである。作り手は、自然からの材料である竹、蔓などを自分で手に入れ、つくり、売って歩いていたものが、専門化し、職人として独立し、特産地も形成されていったようである。ともあれ、その織りなす編み目や造形の素朴な美しさ、実用としての用途の多様さ、力強さにはおどろき、職人の技の見事さにいつも感心してしまう。

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そういえば、子供の頃の川で魚を取る仕掛け(関西でいう「もんどり」)や、つりの「魚籠(びく)」、蕎麦を盛ったり、野菜や果物を冷やしておく「ざる」、物を収納する「行李(こうり)」、「簾(すだれ)」など生活の身近なところに職人の作った「ざる・かご」など、編組品の類が沢山あった。この展示を見ると、日常生活や日用品と自然とのかかわり、もともと「ものづくり」とは何のためだったのかという職業観、やがて消えていってしまうかもしれない職人の技や、手仕事の伝承などについて考えさせられる。

100年以上は経っただろうかと思われる椅子に腰掛けてみる。すとんと腰が落ち着く。蔵造りの民芸館の中を吹き抜ける風に暑さを忘れてしばし憩う。故郷へ帰ると、困ったことに、なぜかJAZZはあまり浮かんでこない。レトロな日本の歌ばかりが浮かんでくるのだ。この日、民芸館の素晴らしい手仕事に囲まれていると、こんな歌が浮かんできた ・・・。

「天然の美」。「田中穂積」作曲、「武島羽衣」作詞の唱歌。1902年(明治35年)、私立佐世保女学校の音楽教師だった田中は、九十九島の美しい風景を教材にしたいと考えていた。そこで、折りよく入手した「武島羽衣」の詩に作曲し、本曲は誕生したという。「美(うるわ)しき天然」とも呼ばれる。その物哀しいメロディが好まれたのか、のちに理由は分からないが、ジンタとして、サーカスやチンドン屋さんの曲になってひろまったという。

この詩で讃えられているのは、その歌詞からキリスト教的な神と想像できるが、何故か民芸館の自由で創造的空間に似合い、ここにも宿っているような気がした。

「天然の美」(美しき天然)  作曲・田中穂積 作詞・武島羽衣

「♪ 空にさえずる 鳥の声 峯(みね)より落つる 滝の音
   大波小波 とうとうと 響き絶やせぬ 海の音
   聞けや人々 面白き この天然の 音楽を
   調べ自在に 弾きたもう 神の御手(おんて)の 尊しや

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   朝(あした)に起こる 雲の殿(との) 夕べにかかる 虹の橋
   晴れたる空を 見渡せば 青天井に 似たるかな
   仰げ人々 珍らしき この天然の 建築を
   かく広大に 建てたもう 神のみ業(わざ)の 尊しや   ♪」


聴いてみます、ジンタ? 「天然の美 (美しき天然)」。

          

民芸館をでて、松本市内に向かうと、8月から9月にかけて行われる松本の新しい風物詩、「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」の開幕を告げるポスターがいたるところに貼られていた。これから松本は、山や避暑の観光客、盆の帰省客、「松本ぼんぼん」の祭り客、そして「サイトウ・キネン・フェスティバル」の観客と、最も忙しい季節を迎える。

そして、このブログを書いている今日は、ヒロシマに原爆が落とされた日。平和を祈念する日 ・・・・ 。


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注) 「サイトウ・キネン・フェスティバル松本(略称=SKF)」は、「小澤征爾」氏のプロデュースにより、1992年から毎年8月、9月に長野県松本市で行われるオペラ、オーケストラ公演などを中心とした音楽祭。名チェリストで桐朋学園創立者でもあった「斎藤秀雄」氏の没後10年の1984年に小澤征爾氏らの呼びかけで世界各地から弟子が集まりコンサートを行ったのがきっかけで、1992年に第1回のサイトウ・キネン・フェスティバルが開かれた。世界でソリストとして活躍しているような弟子の人々が、このときだけ集まってオーケストラを編成するので、演奏のレベルが非常に高く、「サイトウキネン」は、世界でもトップレベルの音楽祭として注目されている。
by knakano0311 | 2010-08-07 09:11 | ふるさとは遠くにありて・・・ | Comments(0)
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