(写真;イナゴの佃煮)
「昆虫食ブーム」であるという。そんな記事を読んだときは、「そんなことがブームになるんだ」と思った。どうも「人と違った変わったものを食べてみたい」というグルメ志向の延長らしい。省みれば、私の子どもの頃はずっと「昆虫食」があたりまえだったような気がする。だから人は虫を食うものだと当たり前のように思っていた。長野県の生まれ、山国育ち。今のように交通網が整備され、保冷車、家庭用の冷蔵庫などが普及したのはずっと後のことである。子どもの頃、生の魚、すなわち刺身などは食べた記憶がない。魚といえば、干物、塩漬け、味噌漬け、酢漬け、せいぜい焼き魚が当たり前だった。それも毎日食卓に載るわけではなく、何かの「ハレ」の日にだけ食卓に出された。肉もそうで、牛肉なども食べた記憶がなく、「すき焼き」といえば、馬肉、「トンカツ」が誕生日、クリスマス、こどもの日などの最大のご馳走であった。従って、「昆虫」は、山国の人たちとっては、貴重な毎日の「蛋白源」であったのだ。
そのなかで、一番ポピュラーなのは、「イナゴの佃煮」。刈り入れの終わった田んぼに全校の児童が総出でイナゴを捕まえ、佃煮業者に売り、それでオルガンなどを買ったものである。味はカリカリッとして香ばしく美味しい。いまでも私は帰省の際に、この佃煮を買ってきて食べている。妻は何とかイナゴだけは食べているが、息子達は「きもい」の一言でまったくだめ。
(写真;蜂の子の佃煮)
「蜂の子」。おやつなどなかった時代であった。近所のガキどもと採ってきた蜂の巣から幼虫を取り出し、フライパンで炒って、塩をまぶし、おやつ代わりに食べたものである。「蜂の子」は、アミノ酸やビタミン、ミネラルを多く含んでいるので、信州人にとっての古くからの栄養源で強壮効果もあるという。子どもがそんなものを食ってどうするのだ ・・・ 。
(写真;ざざむしの佃煮)
「ざざむし」。もっとも有名な信州の「昆虫食」、いや有体に言えば「ゲテモノ食い」であろうか。「虫」のかたちそのまんまという、その見た目のすごさから有名になったに違いないと思う。「ざざ虫」とは、清流に住む「カワゲラ」、「トビケラ」等の水生昆虫の幼虫である。「ザアーザアー」と音を立てて流れる川にすむ「虫」というのがどうも語源らしい。これは主に佃煮や揚げ物などにして食するが、これからの季節、日本酒にすこぶる合う珍味であるのだ。
(写真;蚕のさなぎの佃煮)
そして圧巻は「蚕のさなぎ」であろうか。信州はかって養蚕・製糸産業の盛んだった土地。私の住んでいた近くにも多くの製糸工場があった。そこで蚕の繭から生糸を取り出した後にのこる蛹(さなぎ)を食べるのである。最後に残った「さなぎ」まで食べるのであるから、今様に言えば「エコ」であろう。とはいえ、あの芋虫みたいな蚕の姿を想像しただけで悪寒や虫唾(むしず)が走る向きもあるのではないだろうか。これも、醤油と砂糖で煮付けて佃煮にして食べるのが一般的で、脂がのって香ばしく、「イナゴの佃煮」とならぶ私の好物である。しかし、さすがの妻も、「ざざむし」と「さなぎ」は勘弁してくれという。
「昆虫食」は、「蚕のさなぎ」に見られるように、その地域の特色や歴史に根ざした立派な食文化である。「捕鯨」などが槍玉にあげられたりするが、朝鮮や中国北部では、私も食べたことがあるが、今でも犬の肉を食うのである。これも立派な食文化である。外国がとやかく言う筋合いのことではないのである。
子どもの頃に、このように「昆虫食」を刷り込まれたためか、外国でそれに接しても、たじろぐことはなかった。台湾では「タガメ」を、さっと油で揚げて食する。見た目、まったくの大き目の「ゴキブリ」のから揚げのごとし、大変グロテスクである。北京一番の繁華街「王府井」では、いまでも路地に入ると、串に刺した「さそり」を焼いたものを露店で売っている。いずれも食してみたが、「タガメ」といい、「サソリ」といい、ぱりっと香ばしく美味なる昆虫であった。
帰省帰りの今日も「イナゴ」を肴に一杯やったが、なにせ今日の写真はいずれも、私にとっては涎ものでも、皆さんには少々グロテスクだったかも知れない。メインのご飯は、これまたふるさと土産、竹風堂の「栗おこわ」。柳行李の弁当箱が美しい。この写真でお口直しを ・・・・ 。
「虫」のことは英語で「bug」という。しからば、「jitterbug」の意味をご存知だろうか?辞書で調べてみると、「ジルバ 《スウィングに合わせて踊る奔放なダンス》、ジルバを踊る人,ジャズ狂」などという訳が出てくる。ダンスの「ジルバ」である。「jitter」は「震えている様」、「bug」は「虫」、そんなところから19世紀の初頭にはやったダンス「ジルバ」をこう名づけたらしい。
ピアノ&オルガン奏者で1943年に39歳の若さで他界したJAZZの巨人の一人、「ファッツ・ウォーラー/Thomas “Fats” Waller」の代表曲に「The Jitterbug Waltz」という曲がある。「ビル・エヴァンス/Bill Evans」の有名な「Waltz For Debby」,と並ぶ、JAZZワルツの名曲といわれている。「ミシェル・ルグラン/Michel Legrand」が、マイルス、コルトレーン、エヴァンスらオールスターを起用した11人編成のオーケストラによる制作いう贅沢なアルバム「ルグラン・ジャズ/Legrand JAZZ」に収録された演奏が魅力的。ハープの入った凝ったイントロから、4ビート、マイルスらのソロへと続く。
ルグラン・ジャズ
ミシェル・ルグラン / ユニバーサル ミュージック クラシック
「Michel Legrand and His Orchestra - The Jitterbug Waltz」