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大屋地爵士のJAZZYな生活

失われた空間 ~映画「ミステリー・オブ・サンバ」を観て~

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「マリーザ・モンチ/Marisa de Azevedo Monte」(1967年~)というブラジルの女性歌手がいる。ロックからジャズのスタンダード、ブルースから伝統的なサンバ、ボサノバといった幅広いレパートリーで、若いロックファンから年配のジャズやサンバのファンにまで支持されている人気歌手である。たしか2年ほど前、日本へも来たはずである。

その歌姫「マリーザ・モンチ」が、歴史の波に消えた伝説のサンバを探す旅を描いたドキュメンタリー映画(DVD)を見ました。「ミステリー・オブ・サンバ~眠れる音源を求めて」(2009年日本公開)。

彼女の父親は、「ポルテーラ/Portela」地方の出身で、有名なサンバ・チーム「エスコーラ・ジ・サンバ・ポルテーラ(G.R.E.S.Portela)」の監督を務めた人物。幼少より多くのブラジル音楽に囲まれて育った彼女は、やがて「マリア・カラス」に憧れるようになり、オペラの勉強をするが、留学中に「ビリー・ホリディ」やロックのアーティスト達に強く惹きつけられている事に気付き、ブラジルに帰国しポピュラー音楽の道を進むことを決意したという。

そんな「マリーザ・モンチ」が、1940年代から50年代に作られ、今まで録音されたことがないサンバを後世に残そうと、故郷「ポルテーラ」の、日本でいえば民謡酒場のような店、「ポルテーラ」でかって歌っていた人気歌手たち、「ヴェーリャ・グアルダ」(大御所、年長者たちのこと)を訪ね、サンバの歴史を紐解いていくという音楽ドキュメンタリー映画。

サンバを聴き、ともに飲み、歌い、踊るために「ポルテーラ」に集まってくるお客と音楽の送り手との濃密な交流、そして、それを支える妻や家族たち。なぜサンバが世代を超えて受け継がれていくのかが見事に伝わってくる。そして、「ヴェーリャ・グアルダ」と尊敬をこめて呼ばれる年老いた歌手達の顔のすばらしいこと、歌の見事なこと。あんなにも陽気で色気のある爺さんになれたらと思う。当時、サンバだけでは食っていけないので、別の仕事をする傍ら、サンバに情熱を傾けていた彼ら達の生活。楽譜なんかもちろん残っていないのであるが、次第に記憶の中から浮かび出てくる50年前の「サンバ」の数々と「サンバ唄い」、「ポルテーラ」の姿。「サンバが人生・生活のすべて」というあんなにも濃密な交流があふれる音楽空間を日本で探すとすれば、沖縄の民謡酒場ぐらいだろうか。かって日本のあちこちにあった「民謡酒場」もそうであったし、「歌声喫茶」もそうであったかもしれない。日本ではもう失われた空間。映画「ミステリー・オブ・サンバ ~眠れる音源を求めて~」は、そんなサウダージ(郷愁)にも似た思いを、私に呼び起こした。

ミステリー・オブ・サンバ~眠れる音源を求めて [DVD]

アップリンク



「ミステリー・オブ・サンバ~眠れる音源を求めて 予告編」をちょっぴり ・・・。

          

「♪ 新しい一日が今日も訪れる/私が世界を通るのはたった一度だけ
   新しい一日が今日も訪れる/月日と共に私は老いていく
   世界は毎日私を通り過ぎるのに/私が世界を通るのはたった一度だけ ・・・ ♪」

やがて、「カスキーニャ」のカセット・テープが大量に発見される。マリーザが、「ヴェーリャ・グアルダ」の一人、「パウリーニョ・ダ・ヴィオラ/Paulinho da Viola」と歌う発見された名曲「新しい一日」。なんという深い歌であろうか。「Marisa Monte e Paulinho da Viola - O Mundo É Assim」。映画のシーンとともに。

          

キューバのハバナにある「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」。このクラブを中心に、150年の歴史のある「ソン」というキューバ音楽を、革命の荒波をくぐって守り続けてきたが、今はもうすっかり老いてしまったミュージシャンたち。そのドキュメンタリーであるこの映画にも、同じ感動を受けたことを思い出した。

ブエナ☆ビスタ☆ソシアル☆クラブ [DVD]

バップ


by knakano0311 | 2010-11-12 09:32 | サウダージ | Comments(0)
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