あちこちから「紅葉だより」が届きだした。今年の紅葉ドライブはどこにしようかと、迷いましたが、京都の北部丹南市美山町、北村にある「かやぶきの里」へと車を走らせた。我が家から1時間40分ほどのドライブである。美山町は京都と日本海の若狭・小浜との中間に位置し、「鯖街道」と呼ばれた「周山街道」が町を貫いている。気候は日本海側に近いため、この日も時折、時雨模様。亀岡から無料化実験を行っている京都縦貫道路へ乗り、園部ICで降りて府道19号を北へ走ると、すぐに両側は杉の緑と広葉樹の紅葉とが織り成す、見事な綾錦の里山が延々と続く。黄色はブナ、ミズナラ、コナラ、クヌギ、赤色はサクラ、カエデ、モミジであろうか。本当に息を呑むような美しさである。畦や農道、畑、里山がきちんと手入れがされているのも見て取れる。そんな景色のなかに、かやぶき屋根や、この地域独特の伝統的な農家が点在している。まさに「日本の原風景」のなかにタイム・スリップしたような気になる。
やがて、綾錦に染まった山裾にかやぶき屋根の集落が見えてくる。目的地の国の重要伝統的建造物保存地区に指定されている「かやぶきの里」である。この里、北村地区は冬は豪雪地帯、その谷間のゆるい傾斜地に寄り合うように住まいが密集した、日本のどこにでもあるような山村である。現在50戸ほどある集落のうち、38戸がかやぶき屋根の建築で、岐阜県白川郷や福島県大内宿に次ぐという。最古のものは、寛政8年(1796年)建築、多くが19世紀中ごろまでの江戸時代に建てられているという。
集落内をゆっくりと散策してみる。菩提寺、先祖代々の墓、鎮守の森、八幡様、かやの茂る茅場 ・・・。静かでゆったりとした時が流れているようである。この里は博物館的に建物を保存しているのでなく、50戸全部に人が住んでいて、現実の生活が営まれているのである。会話、洗濯物、農機具、季節の花が咲く庭、熟れた柿 ・・・ 。ときどき時雨れてくる濡れた道を歩いていると、傍らから流れてくる生活の息遣い。お地蔵さんの置かれている辻からひょいっと懐かしい顔に会えそうな気がする。
そんなかやぶき集落の一角に、
「ちいさな藍美術館」はあった。京都市内からこの地に移り住んで30年近くなるという、藍染め作家「新道弘之」さんの自宅兼工房兼美術館である。築二百年超という、かやぶき古民家の一階には、藍染の工房が、二階には自作品とコレクションが開かれている。古民家でみる藍染、ここもまた静寂と懐かしい雰囲気が漂う空間。
「国の保存地区に指定され予算がつき、保存活動もだいぶやり易くなった。何にもまして若い屋根葺き職人が住みだしたことが大きい。」と語る新道さん。伝統をずっと保存していくには、お金ももちろん大事であるが、何よりも技を伝承していく「人」が要なのである。懐かしい「原風景」の村と生活が「村おこし」になった ・・・ 。
売店でこの地の名産に加えて、大麦を炒って挽いた粉を水飴にまぶした「はったいこ飴」を買い求め、そのなつかしい味を口の中に含みながら帰路についた。
この「原風景」、「サウダージ・ドライブ」のお供は、やはり「ボサノバ」。まずは、オーストリア出身という「シモーネ/Simone」の最近のアルバム、「アロマ・ハワイ」。有名なハワイアン・ナンバーをボッサ・アレンジした、いわゆる「フェイク・ボッサ」。ミスマッチと思いきや、これがボサノバにも、この秋の季節にもよく合うのだ。この「ほっこりボッサ」を聴きながら、12月中旬の気温という寒気の中、秋深まる丹波路をゆっくりと走る ・・・ 。
アロマ・ハワイ
シモーネ&ハワイアン・ジャズ・バンド / ヴィーナスレコード
もう一枚は、ベテラン・アルト奏者の「リー・コニッツ/LEE KONITZ」が、「A.C.ジョビン」に捧げたボッサ・アルバム「ブラジリアン・ラプソディ/BRAZILIAN RHAPSODY 」。美しいメロディをじっくりと、軽快に若手プレイヤーたちと歌いあげるコニッツのアルトが耳に心地よい。1995年NY録音。
ブラジリアン・ラプソディ
リー・コニッツ&ザ・ブラジリアン・バンド / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
上記アルバムから、
「メナーニ・モサ/MENINA MOCA (若い娘)」。