人には、昔一度聴いて、そのときは印象には残ったが、やがて題名も歌っている歌手も忘れてしまい、ある時ふと再び聴いて、不意に懐かしさや共感がこみ上げて来て、忘れられない歌になってしまったという歌が一つや二つはあるかも知れない。私にとってそんな歌のひとつは、「バリー・マニロウ/Barry Manilow」の歌う「When October Goes」である。何かで初めて聴いたそのときは、単に「美しい曲だな」と思っていた程度で、その後聴く機会もないまま、曲の名前も、歌っている歌手もすっかり忘れていた。最近、ローカルのNHK神戸がニュースの時間に放映しているJAZZライブの番組で歌っているのを聴き、この歌を思い出すとともに、深い共感が湧き上がってきた。
この歌の歌詞は、「ミスター・アメリカ」と呼ばれ、「Moon River」、「The Days Of Wine And Roses」などでオスカーをとった有名な作詞家、「ジョニー・マーサー/Johnny Mercer」(1909年11月18日-1976年6月25日)の作詞である。彼の妻が彼の死後、遺品を整理していた時に偶然見つけたそうである。彼女は、そのとき直ちに「マニロウに曲をつけて歌ってもらおう」というインスピレーションが閃いたそうで、また詩を渡されたマニロウも、この詩の奥に流れている「スピリチュアルなもの」に動かされ、曲が完成するのに15分もかからなかったそうである。そんな二人の直感、閃き、想いがこの美しい曲、「When October Goes」を産んだのである。そしてその「スピリチュアルなもの」は、いまの私にも届いたのだ。
この歌は、1984年ポピュラー畑の彼にしてはJAZZ・ブルース色の濃厚な、全曲オリジナルで構成されたアルバム、「2:00 AM Paradise Cafe」に収録されている。これからの冬の夜長、グラスを傾けながらゆったり聴くにはぴったりの一枚であろう。まるでNYあたりの小さなJAZZクラブの片隅に居るような気分に浸れる極上のジャズ・バラード・アルバム。