ある歌を聴いて、大げさに言えば、鳥肌が立ったり、衝撃が走ったことが今までに何度かある。そんな歌のひとつが、アジアの癒し姫「ジャシンサ/Jacintha」の歌う「Here's To Life」であった。定年を迎えた頃であったろうか、会社人生に一区切り付け、多分定年後の暮らし方や生き方に、多少不安や戸惑いを覚えていたのであろう。そんな時に、この歌の歌詞がすっと心に入ってきた。この歌が収録されていたアルバム「Autumn Leaves」は、その時期より大分前に手に入れていたのに、その時までこの歌をそんなに気に留めることがなかったのだ。その歌「Here's To Life」は、この「ジョニー・マーサー/Johnny Mercer」へのトリビュート・アルバムの中で、ただひとつ、「ジョニー・マーサー」以外の手になる詩としてボーナス・トラックに収録されていた。
気になって、少し調べてみると、この歌のオリジナルは、「シャーリー・ホーン/Shirley Horn」が1992年にリリースしたアルバム「Here's To LIfe」らしい。「シャーリー・ホーン」といえば、「ダイアナ・クラール/Diana Krall」などに代表される、ピアノ弾き語りスタイルの女性ジャズ・シンガーの元祖として、50年代半ばから活躍したアーティスト。「マイルス・デイヴィス/Moles Davis」らの勧めでニューヨークに進出した後、人気を獲得したという。しかし晩年は、乳がんと糖尿病と関節炎と闘い、脚も切断し、満身創痍の日々を送っていたが、2005年に脳卒中で倒れ、亡くなった。71歳だった。代表する傑作アルバムは「Here's To LIfe」と、「I Remember Miles」(1998年)である。アルバム「Here's To Life」を1990年にレコーディングするに当たって、マイルスが2曲に参加することになっていたらしいが、レコーディングが実現する前に、マイルスは死んでしまい、「I Remember Miles」は、彼へのトリビュート・アルバムとしてレコーディングされたという。この歌を聴くと、彼女の71年の人生がこの歌に凝縮されているような思いがこみ上げててくる。多くのアーティスト達がカバーしているこの歌、多分、この歌はもう「スタンダード・ソング」になっているといってもいいだろう。
「ジョニー・マンデル/Johnny Mandel」がアレンジ、指揮を担当した大編成のストリングスをバックにして、聴かせる「Here's To Life」。
「バーブラ・ストレイサンド/Barbra Streisand」のドラマチックな歌唱も忘れがたい。2009年11月にリリースされた最新作「Love Is the Answer」に収録されている。このアルバムは、バーブラがジャズのスタンダードに挑戦したもので、それも、全13曲をオーケストラ・ヴァージョンと、カルテット・ヴァージョンの2ヴァージョンで録音した。カルテットは、かの「ダイアナ・クラール・カルテット」である。