大分春めいてきたので森林散歩でもと、いつもと違ったウォーキング・コースをたどってみた。我が家がある団地と国道をはさんだ反対側の山の急斜面に通称「スペイン坂」と呼ばれる住宅地がある。もう13、4年前だろうか、突如として、この急斜面に家が建ちはじめたのである。それも、白壁やクリーム色の壁の同じような洋風の外観の家である。30戸ほどの住宅地であるが、いつしかこの住宅地を「スペイン坂」と呼ぶようになった。
大変な急坂である。雪や大雨の時など、この坂を上り下りするのはさぞかし大変だろうと、余計な心配をしながら、ゆっくりと登る。振り返って見ると急坂の分、眺望は絶景である。普通の人だったら購入をちょっと尻込みしそうな住宅地である。住宅業者もどうやって販売するか、相当知恵を絞ったのであろう。家や外壁の色、塀や窓など外観のデザインを少し異国風にするだけで、実際には木造住宅であるが、そこにまるでスペイン風の異空間が、ぽかっとできるのであるから不思議なものである。これが受けたのかもしれない。
その「スペイン坂」をぬけて、標高264.5m、舎羅林山(しゃらりんさん)をめざす。「スペイン坂」から20分ほど山道をゆっくりと登ると、頂上ちかくに、ここも異空間といってもいい様な雰囲気で、巨岩がごろごろしている「磐坐(いわくら)」のような場所があり、ここに登ると一気に眺望が開ける。
すぐ目の前に広がっているのは、バブル期に大規模な宅地開発を行ったが、自然を破壊するだけ破壊したあと業者が倒産、無残な形で放棄された自然だけが残った場所である。最近、開発もわずかに再開されているようだが、10数年たったが、今もってこんなひどい状態である。開発を許可した行政、見通しの甘かった業者、いずれも無責任極まりないバブル期の土地開発の象徴のような空間である。
しばし、眺望を楽しんだ(?)後、すぐに舎羅林山頂上へと到着。三角点、および測量碑が建っている。たしか、毎朝この山への早朝登山を実施し、自然や鹿などの生態を観察、調査報告している市民ボランティア達がいる。真冬の早朝には、運がよければ美しい「かぎろひ」を観ることができるそうだが、私は布団のなかの暖かいまどろみから離れられず、今年もそんな決心はつかなかったのである。頂上近くには、日当たりがいいためか、馬酔木(あせび)の花がもう満開であった。
帰りは三ツ矢サイダーの史跡のほうへ回り、その途中で見かけたうっそうと茂った草むらに佇む廃屋。かっての用途はもうわからないが、恐る恐る中をのぞいてみると、地面より深く掘り込まれた暗い大きな土間が拡がっていた。ここもちょっと怖い不思議な感じのする異空間。近くには大型店舗が建築中で、やがてはここも朽ちてなくなってしまうのであろう。2時間ほどの「ご近所の異空間」の散歩を楽しんだ日である。
かって2度ほど旅したスペインの思い出にちなんだ曲は「アンダルシアの風」。フュージョン・キーボードの人気者、「今田勝」が、これまた人気フュージョン・ギタリストの「渡辺香津美」とコラボした曲である。光と影、哀愁、スペインの風を感じさせる快作である。
アンダルシアの風
今田勝 with 渡辺香津美 / キングレコード
「Andalusian Breeze /Masaru Imada with Katsumi Watanabe」