実を言えば、私は食い物に多少好き嫌いがある方である。しかし、元来、好奇心の方が強いため、本当はソウル・フードかどうかは分からないが、海外出張の折には、そのように思える実にいろいろなものを喰った。まずアメリカ。正直言って美味いものはほとんどなく、有名なステーキやクラブ、ロブスターの店も訪れたことがあったが、日本のそれらの旨さとは比べ物にならない味であったことを正直に言わねばなるまい。「美味い」と記憶に残っているのは、ニューオリンズのオイスターとガンボ、テキサスのバッファロー・ウィングくらい、これは多分「ソウル・フード」でしょう。そうそう、世界中どこへ行ってもチェーン店があって、食べることができるハンバーガー、これも米国人にとってのソウル・フードといっていいでしょう。
取澄ましたフランス料理などは、ソウル・フードには値しないかもしれないが、フランスにももちろん家庭料理は沢山あるはずである。そして、ドイツならば、ソーセージ、ザウワー(酢漬け)、レバー・ペーストなどは間違いなくその範疇に入るでしょうし、。スエーデンでは、北海から揚がる魚介類をふんだんに使った、体が芯から温まる熱々の海鮮ブイヤベースなどはまさにソウル・フードといっていいでしょう。
美味い物がないといわれるイギリスでさえ、仔牛のステーキやスペア・リブは絶品で、あの狂牛病騒ぎの最中でも、お構いなしに食っていましたね。そして、タラやカレイ、オヒョウなどの白身魚の切り身に衣をつけて油で揚げたものに、ジャガイモを細い棒状に切って揚げたチップスを添えた「フィッシュ・アンド・チップス」。これはもうソウル・フードの資格十分でしょう。イタリアのパスタ、スペインのパエリアなどは言うに及ばずです。
そして中国。上海、北京、広東、四川 ・・・、いろいろな料理がある広大な国、そのどれもがソウルフードでしょう。地方の出身者、例えば四川の出身者はあの黄色の辛いスープや「麻婆豆腐」が一番だという。しかし、上海蟹・北京ダックなどは高級料理すぎて、ソウル・フードではないようでな気がする。南の方はよくわからないが、一般に中国人のソウル・フードといえば、餃子ではないだろうか。水餃子であるが、中国では、慶事の時には餃子を食べる習慣があり、今でも旧正月・春節の前の日は、家族総出で餃子を作るという。私が北京に行った時には、必ずと言っていいほど訪れるのが「天津百餃園」。200種類以上の餃子が食べられることで有名な餃子の専門のレストラン。筍やレンコン、しいたけ、豚肉、海老などどれも美味いが、なかでも一番のおおすすめが蟹味噌の餃子。あの口の中に拡がる濃厚な味。一度食べたら病み付きとなり、北京に行けば必ず訪れるようになってしまった。たらふく食って飲んでも、100元くらいで収まるという安さ。
私には、自分のソウル・フードである故郷の名産「イナゴの佃煮」を上司に土産に持って行って、大変嫌な顔をされたという失敗談がある。本人にとってはソウル・フードでも、一つ間違うと他人には「ゲテモノ」となってしまうのである。ソウル・フードかどうかはわからないが、日本では間違いなく「ゲテモノ」の範疇に入る食材や料理が多くあるのは中国であろう。北京一番の繁華街「王府井(わんふうちん)」の路地でも、串に刺したサソリの黒焼きやヒトデの唐揚げを普通に売っていましたし、大連では大きな赤ナマコを茹でたものを食した経験があります。
「四足ならば机以外、飛んでいるものは飛行機以外何でも食べる」と言われているのが広州である。「食は広州に在り」といわれる由縁である。そこの野生動物市場としてよく知られる「白雲市場」を訪れたことがある。だだっぴろい市場に、ネズミ、ネコ、犬、センザンコウ、ハト、ハクビシンなどの肉がずらっと吊るされているのを観た時は気持ち悪いのを通り越して、一種壮観というか、中国人の「食」に対する執念を感じましたね。私は経験がありませんが、熊の手、猿の脳味噌をすすめられた知人もいました。こうなると映画「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」の世界。私はせいぜい蛇、タガメの唐揚げ、スッポンぐらいでしたか ・・・。それにしても、チャイナドレスのびっくりするような美女が、店員が持ってきた籠の中に蠢いている大きな蛇を指して「おいしそう、これにするわ」などとのたまわっている様を観たときには本当にのけぞりました。北の方でも瀋陽から大連へ向かう列車、彼らが中身を教えずに持たせてくれたのは「犬肉弁当」でありました。どうも犬を食することはそう珍しいことではないらしく、結構いける味でした。
まっ、食欲の秋にふさわしい話題になりましたかどうか ・・・。
ずばり「Soul Food Cafe」という曲があります。フュージョン・ギタリスト「D・T・ウォーカー/David T.Walker」の曲。彼が「ジョー・サンプル/Joe Sample」と組んで出したアルバムのタイトルが「Soul Food Cafe」。曲もウォーカーの自作曲のほか、「The Preacher」、「男が女を愛する時」、「Got My Mojo Workin'」などファンキー色ムンムンの演奏で、「ソウル・フード」を腹一杯喰った気分。
SOUL FOOD CAFE
ジョー・サンプル デイビッド・T・ウォーカー / ビクターエンタテインメント
残念ながら、この演奏がYOUTUBEには見当たらないので、ウォーカーが2007年、来日の際のライブ盤からお聴きください。DVDが出ているようです。
「David T. Walker - Soul Food Cafe (Live)」 。DVD "Live in Tokyo At Cotton Club"(2007)から。 David T. Walker (Guitar)、Byron Miller (Bass)、Clarence McDonald (Piano/Keyboards)、Ndugu Chancler (Drums)。
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