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大屋地爵士のJAZZYな生活

ペドロ・アルモドバルの音楽 ~映画「私が、生きる肌」を観て~

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前作「抱擁のかけら」から2年ぶり、スペインを代表する映画監督、「ペドロ・アルモドバル/Pedro Almodóvar」監督の新作、「私が、生きる肌/ La piel que habito/The Skin I Live In」を観てきました。かっての映画全盛時代ならいざ知らず、私が今、監督の名前で映画を観るのは、「ペドロ・アルモドバル」と「園子温(その しおん)」、「クリント・イーストウッド/Clinton Eastwood」、「チャン・イーモウ/張 芸謀」くらいだろうか。主演は、ハリウッド進出前にアルモドバルに見いだされ、そのラテンのイケメンぶりに、男の私ですら魅了された、ハリウッド初主演の「デスペラード/Desperado」(1995)でビッグ・スターに一躍躍り出た「アントニオ・バンデラス/Antonio Banderas」と、最近のフランス映画のアクション佳作「この愛のために撃て」に出演の「エレナ・アナヤ/Elena Anaya」である。

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「ペドロ・アルモドバル」監督の映画を初めて観たのは、「トーク・トゥ・ハー/Hable con ella」(2002)であった。愛する女性が共に昏睡状態となってしまった二人の男を主人公に描く究極の愛の物語であった。一も二もなく魅了され、その前作の「オール・アバウト・マイ・マザー/Todo sobre mi madre」(1999)をDVDで観、以後は「ボルベール〈帰郷〉/Volver」(2006)、「抱擁のかけら/Los abrazos rotos」(2009)と続いて観たが、いまだに魅了されっぱなしである。また彼の映画を通じ、「トム・クルーズ/Tom Cruise」の元カノくらいに思っていた「ペネロペ・クルス/Penélope Cruz」のファンにもすっかりなってしまったのである。

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今回の話も、アルモドバル監督お得意の「尋常ならざるシチュエーション」と「予想外の結末」というストーリーの愛を巡る問題作。それにしても衝撃的な映画だった。監禁した人物を、人工皮膚によって亡き妻へと作り変えようとする狂気の天才形成外科医の物語を描く。サスペンスなので、これ以上はストーリーを紹介しませんが、観ながらも、「あなたはこれを愛と呼べるか」というキャッチから私が想像していた結末は見事に裏切られてしまったが、この裏切られ方は悪い感じではないかもしれない。いつものことながら、きちっと計算しつくされた脚本と演出だからであろう。

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アルモドバル監督は、「トーク・トゥ・ハー」、「ボルベール(帰郷)」などでも、上手に作品の中で音楽や歌を使うと感心していたが、今回も新しいアーティストとの出会いがあった。実はあまりよく知らないのだが、「コンチャ・ブイカ/Concha Buika」の心に沁みる歌唱や、名前がわからないのだが、サキソフォン奏者のシャンソン?の「小さな花(可愛い花)/Petite Fleur」の演奏などが、やはり実に効果的に使われていた。

「コンチャ・ブイカ」は、1972年生まれ、スペインの「パルマ・デ・マジョルカ/Palma de Mallorca」の出身という。両親は赤道ギニア共和国からの移民で、彼女はジプシーとして少女時代を過ごす。 フラメンコにジャズやソウル、ファンクなどを取り入れた音楽を特長とするという。「私が、生きる肌」では、劇中パーティーの場面で、「Se Me Hizo Facil」と「Por El Amor de Amar」の2曲を歌っている。いずれもベスト・アルバム「En Mi Piel (Best Of)」に収録されているが、この歌にも大きな衝撃を受けた。

En Mi Piel

Buika / Warner Music Latina



映画の一場面から、「コンチャ・ブイカ」の歌う「Por El Amor de Amar」。「Love To Love(愛のために愛する)」という意味らしいが、それにしても、なんという深い哀しみを湛えた歌唱であろうか ・・・。

「♪  私は陽の光が欲しい
   海の青も、空の青も
   私は永遠に生きたい
   花は花であることに満足しているのだろうか
   今の私は風が吹けば、ばらばらに飛び散ってしまう儚い存在

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   私は愛が欲しい
   私という花にキスを与えることができるのは光だけ
   私は愛が欲しい
   私という花に命を与えることができるのは情熱だけ  ♪」  
                        (Googleの翻訳機能で適当に意訳)

「Concha Buika - Por el amor de Amar」
 
     

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アルモドバル監督の映画の中で、最初にストーリーと同じくらい衝撃を受けた歌が、「トーク・トゥ・ハー」で使われた歌、「カエターノ・ヴェローゾ/Caetano Veloso」が歌う「ククルクク・パロマ/Cucurrucucu paloma」である。もちろん、「カエターノ・ヴェローゾ」の名前も、昔、「ハリー・ベラフォンテ/Harry Belafonte」や「アイ・ジョージ」が歌った「ククルクク・パロマ」も知っていた。しかし、この映画を見るまでは、私は、「ブラジル音楽界に革命をもたらした男」などともてはやされているカエターノを聴いてみたいという思いに駆られることはなかったのである。主人公の一組の恋人たち、フリーライターと女闘牛士の逢瀬が「カエターノ・ヴェローゾ」のライブであり、画面に流れる悲恋の果ての死の嘆きを、鳩の鳴き声に託す「ククルクク・パロマ」の唄に鳥肌がたつほどの衝撃を覚えたのである。これが「カエターノ」との最初の出会いであった。

「ペドロ・アルモドバル」に共通する音楽。それは、映画のテーマとも当然密接に関係しているのだが、どんなつらい状況下でも生きていく人間の愛、哀しみ、喜びへの共感であろうか。

トーク・トゥ・ハー リミテッド・エディション
レオノール・ワトリング / / 日活
ISBN : B00008WJ2F
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「カエターノ・ヴェローゾ」は、1942年生まれ、ほぼ私と同世代。ボサノヴァ歌手として音楽キャリアをスタートさせた彼は、やがて「ビートルズ」などの影響を大きく受け、ブラジルのポピュラー音楽と欧米のロックンロール、さらに前衛音楽の要素も取り込んだサイケデリックで前衛的、左翼的メッセージに満ちた音楽スタイルを確立し、推し進めていった。ブラジルの反軍事政権への強烈な敵意を根源とするような音楽は社会主義者からも距離をおかれ、反政府主義活動のかどで投獄され、ロンドンへの国外追放にもあった。1972年ブラジルに帰国してからは、ブラジルの伝統的なスタイルへの回帰、とりわけアフリカにルーツを持つバイーヤ地方の文化に深く傾倒していったという。1980年、国際的なポップスターとしての人気と賞賛も集めた。

男性的であったり、中性的であったり、時には女性的にすら聴こえることがあったりする彼の声。カエターノの後期~最近の全貌を知ることができるベストアルバムといっていいのが、「CAETANO SINGS」。「トーク・トゥ・ハー」のサントラではないが、「ククルクク・パロマ」は勿論収録、影響を受けた「ビートルズ/The Beatles」の「レディ・マドンナ/Lady Madonna」、「ヘルプ/Help」なども収録されている。ほとんどが、ギターの弾き語りで、「ジョアン・ジルベルト/João Gilberto」を継ぐものと彼が称されているゆえんが理解できる。

CAETANO SINGS
カエターノ・ヴェローゾ / / ユニバーサル ミュージック クラシック
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「♪ 夜毎彼は泣いて泣いてばかりいたそうだ
   何も食べずに死ぬまで彼女の名を呼び続け
   恋焦がれて死んでしまったそうだ
   住む人のいない家の開け放たれた戸のそばで
   毎朝早く一羽の鳩が飛んできて哀しそうに鳴いている
   あの鳩はきっと彼の魂にちがいない
   鳩よ、お願いだ、そんなにククルククと鳴かないでおくれ
   誰にも彼の愛がわかる筈がないのだから  ♪」 
            (訳詩;ブログ「シャンソン G-Vocal」より無断借用)

やっぱり、衝撃を受けたサウンドトラックでしょうか。映画の一場面と一緒に ・・・。

「Caetano Veloso -Cucurrucucu Paloma」
 
      


そして私のお気に入りのアルバムは、カエターノが初めて全曲英語で吹き込んだ「異国の香り~アメリカン・ソングス」。「ソー・イン・ラヴ」、「煙が目にしみる」、「ボディ・アンド・ソウル」など、JAZZのスタンダードから「ダイアナ」、「ラヴ・ミー・テンダー」まで、アメリカン・ソングがぎっしり詰まっている。かれは、ライナーノートで、このCDに収録されているアメリカのミュージシャン、「シナトラ」、「マイルス・デイヴィス」、「プレスリー」、「ニルバーナ」などについてコメントをし、「ブラジル音楽の発展に影響を与えたのはアメリカの音楽なんだ。・・・・・音楽をより楽しく、豊かにしてくれたアメリカのポピュラー音楽への感謝の方法を見つけたいと思っている。」と述べている。その一つの答えが、まさにこのアルバムである。しかし、「サウンド破壊の革命児」と呼ばれたカエターノのこと、一筋縄ではアレンジされていない。ラテン色、ブラジル色、カエターノ色に染め上げられたアメリカン・ソング集。

異国の香り~アメリカン・ソングス
カエターノ・ヴェローゾ / / ユニバーサル ミュージック クラシック
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そんなアルバムから、「コール・ポータ/Cole Porter」作曲の不朽のスタンダード、「So in love」、「ジョージ・ガーシュウィン/George Gershwin」の名曲「Summertime」を ・・・。


「Caetano Veloso - So in love」

 
      


「Summertime - Caetano Veloso」

 
      


最後にとびっきりの「オマケ」を。映画「ボルベール〈帰郷〉/Volver」で同名の曲を歌う「ペネロペ・クルス」。感動の場面。元々はタンゴの名曲、定番中の定番のような曲らしく、それを映画ではフラメンコ・バージョンにアレンジ。現在のフラメンコ界のトップに立つという国民的歌手「エストレージャ・モレンテ/Estrella Morente」がペネロペの吹き替えをしているという。

「♪ 彼方に見える星のまたたきが
   遙かな故郷に私を導く
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
   帰郷(ボルベール) 
   しわの寄った顔  歳月が積もり銀色に光る眉

   感傷… 
   人の命はつかの間の花 20年はほんの一瞬
   熱をおびた目で 陰の中をさまよいお前を探す

   人生…
    甘美な思い出にすがりつき 再び涙にむせぶ  ♪」  
           (訳詩はブログ「tomozoのうれし★たのし★大好き」より無断借用)



        


それにしても、前回の「レイ・ブラッドベリ」同様、えらく肩に力が入ってしまいました ・・・。   
by knakano0311 | 2012-06-10 10:04 | シネマな生活 | Comments(0)
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