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大屋地爵士のJAZZYな生活

追補版;北欧美女シンガー図鑑(その8) ~ノルウェイ、悲劇の癒し姫とは~

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週刊誌風、ワイドショー風のタイトルですが、そもそもの始まりは、拙ブログ「60歳過ぎたら聴きたい歌(72)~Antonio's Song~」で「マイケル・フランクス/Michael Franks」をカバーするこの歌の歌い手、ノルウェイのシンガーを見つけた時からだった。過度にねちっこくなりがちなこの歌を、抑制気味にさらっと歌う姿に乾いた北欧の空気を感じ、好ましく思ったのが、「リヴ・マリア・ローガン/Live Maria Roggen」。そのことを思い出して記事を読み返してみたところから始まった。

その時まではまったく知らなかった歌手なのだが、調べてみると、今、ノルウェーでは最もリスペクトされているジャズ・ヴォーカリストの一人で詩人、ソングライターでもあるという。作曲活動に重きを置いたり、ユニットを組んで少し前衛的なJAZZ活動もし、アルバムも出しているようだ。相当長いキャリアがありながら、彼女の最初の ソロ・アルバムは、2007年の「Curcuit Songs」という。現在は、オスロの「Norwegian Academy Of Music」、トロンハイムの「Jazz Conservatory」などで音楽を教えながら、男の子の育児もこなしているという今年42歳の熟女。

Curcuit Songs

Roggen Live Maria / Universal Import



さて、「アントニオの唄/Antonio's Song」と「リヴ・マリア・ローガン」とのつながりだが、2003年に彼女は、「the Radka Toneff Memorial Prize」を受賞している。この「ラドカ・トネフ/Radka Toneff」とは、若くして亡くなったノルウェイの伝説的歌姫で、そのレパートリーだったのが、「アントニオの唄」であった。前述のブログに掲載したYOUTUBE画像の説明には、『From the concert "Til Radka" (tribute concert to Radka Toneff), August 10, 2009, at the Opera House during Oslo Jazz Festival, Norway.』とあるので、この歌を歌うことで、トネフをトリビュートしたのであった。さて、「Live Marie Roggen」の歌う「Antonio's Song」を再掲しておきましょう。

「Live Marie Roggen - Antonio's Song」

       

このYOUTUBEから、俄然、興味を持ったのが、「ラドカ・トネフ/Radka Toneff」。調べてみると、そこには、「エヴァ・キャシディ/Eva Cassidy」や「ベヴァリー・ケニー/Beverly Kenney」を思い起こさせるような悲劇の持ち主だったことが分かったのである。

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資料によれば、悲劇のジャズ・シンガー、「ラドカ・トネフ」は1952年オスロに生まれた。父はブルガリア人の民俗音楽歌手「トニ・トネフ」、母はノルウェイ人。そのためか、彼女の音楽にはPOPSやブルガリア民族音楽の影響が少なからずあるという。1971年から75年までオスロ音楽院で学び、1975年には「ヨン・バルケ/Jon Balke(p)」、夫となる「アリルド・アンデルセン/Arild Andersen(b)」らと「ラドカ・トネフ・クインテット/The Radka Toneff Quintet」を結成。1977年にはこのクインテットでデビュー・アルバム、「Winter Poem」をリリースし、「Spellemann賞(ベスト・ヴォーカル・アルバム部門)」を受賞しているという。そして続くアルバムが、「It Don't Come Easy」(1979)。やがて、美メロ・ピアニスト兼作曲家、「スティーヴ・ドブロゴス/Steve Dobrogosz」を得て、新カルテットを結成し、更なる音楽活動が始める。(注;この「スティーヴ・ドブロゴス」とは拙ブログ「閑話休題;遊びの山は初夏モードに」で取り上げた、「シャネット・リンドストレム/Jeanette Lindstrom」とデュオ・アルバム「Feathers」をリリースしているピアニストである。)

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そして、ドブロゴスとのデュオで、彼女の遺作ともなる「フェアリー・テイルズ/Fairytales」が1982年リリースされた。このアルバムは、ノルウェイで5万枚のセールスを記録し、この年の「Norway's best selling jazz record」に選ばれたという。しかし、同じ年の10月、将来の大きな成長を期待された矢先、30歳の若さで自らの命を断ってしまった。理由はよくわかっていない。このため、遺された録音は決して多くなく、存命中のリリースは、前述のたった3枚で、「フェアリー・テイルズ」が遺作になってしまった。

ガラス細工のように、触れれば壊れそうな「スティーヴ・ドブロゴス/Steve Dobrogosz」の耽美的なピアノと、儚げで頼りなさそうに、ゆっくりと囁くように歌う「ラドカ・トネフ」の透明感ある歌声。思わず聴き入ってしまう。儚さ、凛々しさ、ひんやりとそして乾いた空気、ちょっぴり漂うアンニュイ ・・・。そんな北欧ジャズ・ボーカルにイメージされるものをすべて持っている「ラドカ・トネフ」。30年も前にこんなアルバムがリリースされていたとは全く知らなかった。恐るべし、北欧美女シンガーの奥の深さ ・・・。

Fairytales

Radka Toneff / Odin



アルバム「フェアリー・テイルズ」の中から、2曲。その透明感のある声が冴えわたる「ジミー・ウェブ/Jimmy Webb」のカバー、「The Moon’s a Harsh Mistress」を。

「Radka Toneff - Moon's a Harsh Mistress」

          

おなじみスタンダードの名曲、「My Funny Valentine」。ゆっくりと、そして囁くような歌唱が極めて印象的。そして、ドブロゴスのピアノの美しさも特筆もの。

「radka toneff - my funny valentine」

          

そして、悲劇的な死を遂げたほかのアーティストと同じように、死後相当経ったにもかかわらず、未発表の音源などによるアルバムが何枚かリリースされている。まずは、死後10年、1992年にリリースされた「ライヴ・イン・ハンブルク/Live in Hamburg」。1981年3月、ドイツ・ハンブルクのジャズ・クラブ、「オンケル・ポーズ・カーネギーホール/Onkel Pö's Carnegie Hall」で行われたライヴの模様を収録したもの。カルテットのメンバーは、トネフの他は、「スティーヴ・ドブロゴス/Steve Dobrogosz (piano)」、「アリルド・アンデルセン/Arild Andersen (bass)」、「アレックス・リル/Alex Riel (drums)」。

Live in Hamburg

Radka Toneff / Odin



そして、2003年にベスト・アルバムとして、数枚のアルバムから選曲されてリリースされたのが、「ラドカ・コレクション/Some Time Ago」。彼女の持つアンニュイな空気感、その命を断つまでに真摯に思いつめた生き方の全てが、音楽の中で醗酵してここに結実しているという。

Some Time Ago

Radka Toneff / Universal I.S.



さらに、没後26年となる2008年12月には、未発表音源集、「バタフライ/Butterfly」がリリース。バンド・メンバーで、かつ良きパートナーでもあった「アリルド・アンデルセン」の選曲だという。放送局の音源やジャズ・フェスティバルでの録音などを集めたもので、「Black Coffee」、「My One And Only Love」などスタンダード、カバー曲「Antonio's Song」、「It's Been A Long Long Day」など全12曲に加え、ラドカ24歳時のTV出演時の瑞々しい映像2曲を収録。ラドカの特徴である透き通った声で、熱唱するでもなく、まるで語りかけるように、そして囁くように歌う特長がよく出ている。現在、「Jazzy,Not Jazz」路線の最右翼として、北欧の女性ヴォーカルが注目を集めているが、それよりはるか以前に活躍した悲劇の女性ヴォーカリストの魅力が、今、再び甦る。

Butterfly

Radka Toneff / Curling Legs



冒頭、「リヴ・マリア・ローガン」がトリビュート曲として捧げた「アントニオの唄」を歌う「ラドカ・トネフ」。いくつかのバージョンがあるようですが、この「ヨン・バルケ/John Balke」のピアノもラテン・タッチでドブロゴスとはまた別の味。

「Antonio's Song - Radka Toneff & John Balke」

          

「カーリン・クローグ/Karin Krog」といい、「インガー・マリエ/Inger Marie Gundersenといい、「セリア(シリエ・ネルゴール)/Silje Nergaard」といい、そして、「ラドカ・トネフ/Radka Toneff」。ノルウェイは「癒し姫」の花園かも ・・・。
by knakano0311 | 2012-06-17 22:17 | おやじのジャズ | Comments(0)
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