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大屋地爵士のJAZZYな生活

ロンサム・ジョージの孤独な死

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『南米エクアドルのガラパゴス諸島ピンタ島で発見され、絶滅危惧種の象徴として知られたガラパゴス・ゾウガメの「ロンサム(孤独な)ジョージ」が飼育先で死んでいるのが24日、見つかった。生物学の教科書にも取り上げられ、「世界一有名なゾウガメ」だった。 ガラパゴス諸島ではゾウガメの亜種が島ごとに進化した。ピンタ島系は絶滅したとみられたが、1970年代初めに発見された唯一の生き残りとして「ロンサム」の愛称がつき、同諸島サンタクルス島の研究所で保護されてきた。

ジョージの子孫を残すため、周辺の島にいるゾウガメの遺伝子も解析。父系でつながる親類がいることも判明。交配用につれてこられた雌には見向きもしなかった。このため、遺伝的に近いメスとの人工交配が試みられたが失敗。ジョージの死でピンタ島のガラパゴスゾウガメは絶滅した。 ジョージの推定年齢は100歳以上とみられている。』 (6/25朝日新聞夕刊、写真も)

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この記事を読んで、すぐに頭をよぎったのは、つい最近91歳で亡くなった幻想と叙情の詩人と呼ばれていたアメリカ人作家、「レイ・ブラッドベリ/Ray Bradbury」(参照拙ブログ「グッド・バイ、ブラッドベリ。 グッド・バイ、青春。」)の短編集、「ウは宇宙船のウ/R Is For Rocket」に収められている「霧笛/The Fog Horn」というわずか16ページほどの短編である。多分、ブラッドベリ・ファンなら、誰しもそうであったではないだろうか。数ある短編集のなかで、「ウは宇宙船のウ」は、ブラッドベリ自身が16編を自選した短編集で、その抒情性は群を抜いている。

ウは宇宙船のウ【新版】 (創元SF文庫)

レイ・ブラッドベリ / 東京創元社



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『 …… 「動物が鳴いているみたいだな」とマックダンは自分で自分にうなずいた。「夜泣きをする大きな一匹動物さ。百億年という時間の果てのここに腰をおろし、おれはここにいる、おれはここにいる、と海の奥底に向かって呼びかける。すると海の奥底は返答をする。そうさ、海の奥底が返答をするんだ。…… (中略) ……一年のうちでいまごろなんだが」と彼は、霧に閉ざされた外の暗闇をじっと調べるように見つめながらいった。「この灯台におとずれてくるものがいるのだ」 ・・・ 』    ──── 『霧笛』より(大西尹明 訳)

11月のある夜、百万年もの時の流れを生きながらえ、たった一人だけ取り残された太古の恐竜が灯台の霧笛、泣き叫ぶようなその音を仲間の呼び声と思い、海の底からあがってくるが、仲間ではなく、やはりたった一人だったことに気がつき、傷ついて、再び深い海の底へ去っていくという不思議な静けさと悲しい詩情に満ちた作品である。その恐竜は、怖いけれど、不思議に澄んだ悲しい眼を、きっと持っていたに違いない。「霧笛」は、太古の昔、遠い未来の果て、この世にあらぬものを詩情溢れる筆致で描く珠玉の短編。

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「百年の孤独」なんて焼酎もありましたが、このお話は「百万年の孤独」。「孤独」、「ロンリネス」、「寂しさ」、「仲間」 ・・・・・。それらをテーマとした曲や歌としては数々あるが、このア・カペラを聴いたときも、衝撃的だった。「スザンヌ・ヴェガ/Suzanne Vega」のアルバム、「孤独(ひとり)/Solitude Standing」(1987)の「トムズ・ダイナー/Tom's Diner」。

「スザンヌ・ヴェガ 」は、1959年生まれ、カリフォルニア州サンタモニカ出身の女性シンガーソングライター。生まれてまもなく母に連れられニューヨークへ移り、多くの社会的問題を抱えた地域で子供時代を送ったという。コロンビア大学バーナード・カレッジで英文学を学ぶ傍ら、グリニッチ・ヴィレッジの小さな劇場などに立ち、幼いころの体験した社会問題を批判した曲を歌う。1984年にレコード会社との契約を結び、翌年、「Suzanne Vega(邦題;街角の詩)」でデビューし、その自己内省的社会批判は、アメリカにおいて好意的な反響を得た。1987年には2ndアルバム「Solitude standing」を発表。さりげない日常の中にこそ非日常性が隠されていることを鋭く見破るそのまなざしは、何気ないNYの街角を見つめてつづけている。
 
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「トムズ・ダイナー」。NYの雨の朝。カフェで一人朝食をとる女性の目に映った情景を通じて、大都会に生きる人々の孤独を歌い上げている。ア・カペラという歌唱の持つ肉声と一瞬の「間(ま)」の作り出す効果が、ヴェガの内面からの叫びを際立たせている。そして児童虐待を受ける子供の視点から書かれた「Luka」という曲のように、クールで淡々と歌っているが、そのクールさが、かえってシリアスな詞の内容を浮かび上がらせる。

「スザンヌ・ヴェガ」はやはり詩人。なにげない日常の中から恐怖や畏れ、抒情を紡ぎだすブラッドベリに似ていると思った。

孤独(ひとり)

スザンヌ・ヴェガ / ポリドール



ア・カペラ・バージョンのYOUTUBEは少ないが、日本でのライブから、「トムズ・ダイナー」。

「Suzanne Vega - Tom's Diner」

       
by knakano0311 | 2012-06-26 10:43 | 音楽的生活 | Comments(0)
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