『彼女にとって、詩は命だった。生と死に向き合ったおよそ千編の詩は人生そのものだったはずだ。その彼女とは、塔和子さん。現在82歳。ハンセン氏病の療養所に暮らす高見順賞を受けた詩人だ。(沢知恵さんは)6月、塔さんの詩をピアノで弾き語りしたCD「かかわらなければ」を発表した。 ・・・・ いつか塔さんの詩が歌えたら。機が熟したのは2年前。人とのかかわりを問うた代表作「胸の泉に」を口ずさんだ。 ・・・ ブルースがぴたりとはまった。 ・・・・ 』 (6月26日朝日新聞朝刊「ひと」)
こんな記事が目についた。「塔和子」は初めて聞く名前だが、「沢知恵」は、このブログでも何回か取り上げ、「60歳過ぎたら聴きたい歌」シリーズでは、3回も登場している(「
60歳過ぎたら聴きたい歌(2)~ 風に立つライオン~」、「
60歳過ぎたら聴きたい歌(21)~人生の贈り物~」、「
60歳過ぎたら聴きたい歌(39)~わたしが一番きれいだったとき~」)、日本のシンガー・ソングライター系女性シンガーでは、「浜田真理子」とともにもっともご贔屓のうちのひとり。
「塔和子」。1929年に愛媛県で生まれる。1941年ハンセン病を発病。1943年大島青松園に入所。1957年ころから詩作を始め、1961年に初の詩集「はだかの木」を出版。1963年同人誌編集担当となる。1964年キリスト教の洗礼を受ける。1989年ドキュメンタリー作品、「不明の花 塔和子の世界」(毎日放送)公開。1999年、詩集「記憶の川で」で第29回「高見順」賞を受賞。「塔和子全集」を含め2008年までに26の著作がある。(Wikipedia 参照)
「沢知恵(さわ ともえ)」。1971年、日本人牧師の父と、韓国人牧師の母の間に生まれる。幼い頃より両親の宣教活動のため日本、韓国、アメリカを中心に移り住み、3ヶ国語を身につけ、クラッシック、ゴスペル、ジャズなど様々な音楽と触れる。東京藝術大学音楽学部で音楽を学び、1998年、日本国籍を持つ歌手として戦後初めて韓国政府の許可を得て日本語で歌い、同年第40回「日本レコード大賞アジア音楽賞」受賞。2001年より毎年香川県ハンセン病療養所「大島青松園」で無料コンサートを開いている。2012年現在、23枚のアルバムを発表している。(「
沢知恵オフィシャルサイト」より参照)
たしか最初に聴いたのは、Amazonからのオススメでアルバム、「いいうたいろいろ2」であった。「喝采」、「風に立つライオン」、「真っ赤な太陽」など日本の歌謡曲、POPSのカバー集であるが、そのアレンジの巧みさと、単なるピアノ弾き語りとは思えないほどのエモーショナルな表現に驚いて、すっかりファンになってしまったのである。
いいうたいろいろ2
沢知恵 / コスモスレコーズ
そんな「沢知恵」が故「茨木のり子」の代表作「りゅうりぇんれんの物語」に続いて「塔和子」を歌ったというニュースが冒頭の記事。「自らが選んだ詩に曲をつけ、時に優しく、時に激しく語られる言葉が、聴く者を捉えて放さない作品。東日本大震災後、絆を求める全ての人々への感動と癒しのメッセージが詰まった一枚」というキャッチ。さっそく聴いてみなくてはなるまい。
かかわらなければ~塔和子をうたう
沢知恵 / コスモスレコーズ
【 胸の泉に 】 作詞;塔和子 作曲;沢知恵
「♪ かかわらなければ この愛しさを 知るすべはなかった かかわらなければ
かかわらなければ この親しさは 湧かなかった かかわらなければ
かかわらなければ この大らかな 依存の安らいは 得られなかった
かかわらなければ この甘い思いや さびしい思いも 知らなかった
人はかかわることから さまざまな思いを知る
子は親とかかわり 親は子とかかわることによって
恋も友情も かかわることから始まって
かかわったが故に起こる 幸や不幸を
積み重ねて大きくなり くり返すことで磨かれ
そして人は 人の間で思いを削り 思いをふくらませ 生を綴る
ああ 何億の人がいようとも かかわらなければ路傍の人
私の胸の泉に 枯れ葉いちまいも 落としてはくれない ♪」
「沢知恵 - 胸の泉に (ラジオママ〜お産いろいろ子育ていろいろ〜より)」 一部ですが聴くことができます。
理念なき原発再稼働、一体改革なき消費増税、政党とは何か?という大きな疑問をもった造反劇、国民から選択肢を奪う大連立構想、ただのキャッチ・コピーだったマニフェスト、国民の利益より東電の利益を優先したとしか思えない東電処理、「シナリオ通り」とほくそ笑む顔が目に浮かぶ財務省・経産省 ・・・・。どうもおかしな方向に再び迷走し出した民主党政権。こちらは、「かかわりない」ではすまされない大問題 ・・・・。
現在も「塔和子」さんが暮らし、「沢知恵」が毎年無料コンサートを開く「国立療養所大島青松園」は、年老いたジャズ・マンたちが再びバンドを結成しようと立ち上がる感動の映画「ふたたび Swing Me Again」の主人公、「貴島健三郎(財津一郎)」が入所していた所でもある。
ふたたび SWING ME AGAIN コレクターズ・エディション [DVD]
ポニーキャニオン
さて、「沢知恵」のおすすめのアルバムは、シンガーおよびソングライターとしての彼女の魅力を満載したベスト・アルバム、「シンガー」と「ソングライター」。いつ聴いても、私に感動を呼び起こす「さだまさし」のカバー、「風に立つライオン」もここに収録されている。牧師だった両親と共に移り住んだアメリカでは、ゴスペルを歌って育ったという「クリスチャン・シンガー」のもつ本物のソウルを彼女の歌、詩、パフォーマンスに感ずる。TVには露出せず、かといってスター歌手でもなく、もちろんアイドルでもない。独自のスタンスと姿勢で、人に「音楽のチカラ」を与えつづけている彼女の音楽活動を、高く評価するとともに今後ますます期待したい。
シンガー
沢知恵 / コスモスレコーズ
ソングライター
沢知恵 / コスモスレコーズ
そして「ソングライター」から多くのアーティストのカバーされている「こころ」。彼女のルーツでもある韓国の詩人、「キム・ドンミョン」の詩に曲をつけたもの。オリジナルのアルバムは、「一期一会」。
【 こころ 】 作詞;キム・ドンミョン 訳詩;キム・ソウン 作曲;沢知恵
「♪ わたしのこころは湖水です どうぞ漕いでお出でなさい
あなたの白いかげを抱き 玉と砕けて船べりへ散りましょう
わたしのこころは灯火です あの扉を閉めてください
あなたの綾衣の裾にふるへて こころ静かに燃えつきてあげましょう
わたしのこころは旅人です あなたは笛をお吹きなさい
月の下に耳傾けて こころ愉しく夜を明かしましょう
わたしのこころは落ち葉です しばしお庭にとどめてください
やがて風吹けばさすらひ人 またもやあなたを離れましょう ♪」
「こころ - 沢知恵」