1950年代後半、フランスのヌーベルバーグの多くの映画監督たちが、好んで映画音楽にジャズを取り入れたが、そのシネ・ジャズ第一号となったのが、1957年制作、鬼才「ロジェ・ヴァディム/Roger Vadim」監督の映画「大運河」(日本公開 1959年)。ベネチアが舞台の、お得意の男と女のどろどろ関係を耽美的に描いた映画である。ヴァディムはそこでジャズをいち早く取り上げた。映画音楽は初めての「ジョン・ルイス/John Lewis」が音楽を担当し、MJQが演奏したが、その6曲のサウンド・トラックを収録したアルバム、「たそがれのヴェニス/No Sun in Venice」(1957年4月録音)は、映画から独立してみても、立派なジャズの作品に仕上がっている。
そして、知名度はマイナーであるが、私の一番好きなヴァイブ奏者は、「ゲイリー・マクファーランド」。学生時代によく通ったグリルのマスターから教えてもらった「ソフト・サンバ/Soft Samba」というアルバムで彼を知って以来、このアルバムは、40年来の愛聴盤となっている。1964年録音、1965年リリース。そしてこのアルバムには、「She loves you」、「And I Love Her」、「And I Love Her」、「抱きしめたい」と「ビートルズ/The Beatles」のカバーが4曲入っている。1965年といえば、第5作目のアルバム、「4人はアイドル/Help!」がリリースされた年。そのビートルズ絶頂期時代に、「こんなしゃれたアレンジのカバーとは!」と驚いたものである。「セルジオ・メンデス&ブラジル’66/Sergio Mendes & Brasil '66」に先駆けること1年、それが故に私は、ゲイリーこそが、「フェイク・ボッサの元祖」と勝手に決めているのである。黒縁メガネの奥のあの優しい目のマスターを思い出す我が青春の一枚、「Soft Samba」。
「アントニオ・カルロス・ジョビン/Antonio Carlos Jobim」と「ケニー・バレル/Kenny Burrell」がギターをとっていると、クレジットにはあるが、どの曲が誰のギターだかよくわからないのも愛嬌。それでは、ロンドン・オリンピックの開会式のラストのゲスト・パフォーマー、「ポール・マッカートニー/Sir James Paul McCartney Jr.」に敬意を表して2曲ほどを ・・・。