
私の地域では、先日の虹をもって、一応大雨は一段落したが、それにしても、よくもまあ、毎日雨が降り続いたものである。それも、時折雷鳴を伴ったバケツをひっくり返したような豪雨である。私の近辺で特に被害が出たというわけではないが、TVのニュースを見るにつけても、他人ごとではなく、もう雨はたくさんというのが本音。そして、どちらかに極端に大きく振れた今年の夏の天気、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という格言が思い出される。
明けていつもの山遊び。クヌギの樹の下には、はやくも「チョッキリ虫」が切った枝葉がいくつも落ちている。確実に秋は近づいているのだ。
さて、歳を取るにしたがって、新しいことを始めたり、新しい世界に身を投じたりする意欲が段々と衰えてきている。そんな私にとっても、「三浦雄一郎」氏は本当に驚嘆と尊敬に値すると思う。私の好みのジャズについても然りである。長年積み重なってきた自分が心地よいと感じている予定調和の空間にとどまり、新しい空間やアーティストの世界へ、第一歩を踏み出すことに迷いを感じてる。思い切って踏み出して聴いてみたら、魅力的な新しい世界が広がっていた。そんな感じの一人の女性歌手がかっていた。「ラシェル・フェレル/Rachelle Ferrell」。

「ラシェル・フェレル」。R&B、ゴスペルをその活躍の中心とするが、ヴォーカリストとしてだけでなく、ピアニスト、作曲家、作詞家としても活躍。1961年、フィラデルフィア生まれというから、もう脂がのったベテランの域。6歳から歌いはじめ、13歳からヴァイオリンの訓練をうけるなど、はやくからその才能を開花し、音楽人生を歩み始めたという。ボストン、バークリー大学で作曲・編曲を学び、1990年「First Instrument」で、アメリカに先駆け日本デビューした。東芝EMIのプロデューサーが、ニューヨークのジャズクラブで発掘したという。その5年後、1995年、自国アメリカ、「Blue Note」より、そのU.S盤である「Somethin' Else」をリリース、それが、邦題「ラシェル・フェレル・デビュー!」となって、日本で再リリースされた。このデビュー・アルバムは、ジャズ・アルバムであり、リリース時、ジャズ・ヴォーカルの新星として注目されたという。しかし、このころは彼女の存在を私はまったく知らなかった。
First Instrument
Rachelle Ferrell / Blue Note Records

その後は、R&B路線へと軸を移し、幅広い活動を続けているというが、これだけの長いキャリアがありながら、極めて寡作のようであり、私が知っている限り、リリースが確認できているのは5枚ほど(内2枚はJPN/USバージョン)である。私が彼女を知ったのは、5作目、ヨーロッパ最高のジャズ・フェスティバルである「モントルー・ジャズ・フェスティバル」でのライブ・アルバム、「Live at Montreux 91-97 [Live]」(2002年)であった。「7オクターブ」という驚異の声域を自在に操るシンガーとして話題になったからである。
いや、度肝を抜かれましたね。声が楽器そのもの。「圧倒される!」とはこういうことなんでしょう。しかし、アメリカのジャズの懐の深さを感じるものの、「凄い!だが、毎日これを聴くのはちょっとどうも ・・・」というのが、その時の率直な感想であった。
Live at Montreux
Rachelle Ferrell / Blue Note Records
それから10年間、彼女を聴くことはなかったが、最近あるきっかけで、デビュー・アルバム、「First Instrument」を聴いた。いや、新鮮でしたね。「なぜR&Bのほうへ ・・・」と軸を移したのが、惜しまれるくらい。あの7オクターブを使い切るのではなく、デビュー・アルバムの様に、もっと抑制したら深い表現力が生まれるのに、過ぎたるはなお ・・・。そんな彼女のジャズが聴きたいと素直にそう思った。
デビュー・アルバムから、スタンダード「You don't know what love is/恋をご存知ないのね」を聴いてみましょうか ・・・。
「Rachelle Ferrell - You don't know what love is」 多分誰にもまねできないでしょう、こんな歌唱。その7オクターブの声域を自在に操る独特のパフォーマンス。それが心に響くか、あるいは「過ぎたるは ・・・」と思うかは人それぞれでしょう。しかし圧倒されることは間違いない。「théâtre antique de Vienne」でのライブから、「I can explain」を ・・・。
「Rachelle Ferrell - I can explain (live) 」