アメリカで、末期がん(脳腫瘍)で余命半年と告知され、みずから死を選ぶと宣言していた女性が、医師から処方された薬物を服用して、宣言通り11月1日に家族に見守られながら息を引き取ったということがニュースで報じられ、日本でも「尊厳死」、「安楽死」やその是非について大きな話題と議論なっているという。
このニュースを見ながら、2ヶ月ほど前に見た映画(DVD)が頭に浮かんだ。「ステファヌ・ブリゼ/Stephane Brize」監督作品のフランス映画「母の身終い(みじまい)」(原題:Quelques Heures De Printemps 直訳;春の数時間)。病で余命わずかとなり尊厳死を決意した年老いた母親と、そんな母の覚悟を受け止められずに葛藤する息子の姿を静かに見つめた人間ドラマである。
麻薬の密売に手を出し、服役していたアランは、出所後、闘病中の母イヴェットの家に身を寄せ、人生の再出発をしようとあがいていた。ふたりの間には長年にわたって確執があり、心は簡単には解け合わない。そんなある日、アランは、母の薬が入った引き出しの中の書類を手に取り、愕然となる。そこには、「尊厳死の表明」「スイスの施設で尊厳死」「人生の終え方を選択する」といった文章が書かれ、母のサインがあったからだ。アランの心は激しく揺り動かされる。ふたりに残された時間は、あまりにも少ない。そしてついに母が旅立つ日の朝がやってきた・・・。(NETより)
重いテーマの映画であったが、実に爽やかな感動が残った映画であった。そして、ここで描かれたテーマが現実となってニュースで報じられてのだ。
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「映画「母の身終い」予告篇」
一般には、「安楽死」と「尊厳死」の使い方も混同されているようだが、、日本国内では、回復の見込みがなくなった人の死期を、医師が薬などで早めることを「安楽死」とし、患者の意思を尊重して延命治療をやめることを「尊厳死」として定義づけしていることも今回知った。しかし、「安楽死」を認める法律は国内にはないし、「尊厳死」にしてもそれを裏付ける法律もないという。「安楽死」を認めていると言う国はアメリカのオレゴン州、ワシントン州、モンタナ州、バーモント州、ニューメキシコ州、オランダ、ベルギー、スイス、ルクセンブルクだけだという。
私もそんなに遠い将来ではないはずの「身を終う覚悟」ができているとは到底言い難い。「延命治療」は拒否したいし、「尊厳死」を望みたいと思って、妻にも話しているが、実際にその状態になった時に果たしてどうなるかは自信がない。まして、「自殺」といってもいいような今回のような「安楽死」までは、とても覚悟はつかないだろう。しかし、必ずいつかは「終わり」は来るのである。終わらねばならないのである。いずれにせよ、「身をどう終うかという覚悟」の選択から逃げるわけにはいかないのだ。
事故で四肢麻痺となった主人公が、法律では認められていない尊厳死を求めて裁判をおこすという「アレハンドロ・アメナーバル/Alejandro Amenábar」監督のスペイン映画、「空を飛ぶ夢」、下半身不随になった女ボクサーが主人公の「クリント・イーストウッド/Clint Eastwood」監督のアカデミー受賞作、「ミリオン・ダラー・ベイビー」、「周防正行」監督の「終の信託」もおなじテーマを扱った作品として、深く心に刻まれている。
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もし私が仮に「安楽死」を選択するとして、その時に聴きながら眠りにつきたいと思うアルバムの一つは、「エンリコ・ピエラヌンツイ/Enrico Pieranunzi」の「Racconti Mediterranei /地中海物語」であろうか ・・・。「エンリコ・ピエラヌンツイ」のピアノ、ダブルベース、「マーク・ジョンソン/Marc Johnson」とクラリネット、「ガブリエル・ミラバッシ/Gabriele Mirabassi」という編成の、エンリコのオリジナル曲によるアルバム。アルバム・タイトルどおり、穏やかな春の地中海をほうふつとさせる美しいメロディと演奏が淡々と続いてゆく。通常のピアノトリオとは少し違って、クラリネットが明るい日差しを感じさせる。中でも、3曲目「Canto Nacosto (秘められた歌)」、9曲目「Un’alba Dipinta Sui Muri (壁に描かれた夜明け)」 の美しさは特筆。
Racconti Mediterranei
Enrico Pieranunzi / Egea
「Enrico Pieranunzi - Canto Nascoto」