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大屋地爵士のJAZZYな生活

TVドラマを見て音楽的遊びに気づく

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 最近見て面白かったTVドラマは、 Amazon の配信で見た「高い城の男/原題:The Man in the High Castle」。ずいぶんと昔に読んだことがあるが、1963年度ヒューゴー賞受賞の「フィリップ・K・ディック/Rhilip.K.Dick」のSF小説「高い城の男」に基づくTVドラマである。全4シリーズ、各10話を、日本では、2016年12月から2019年11月に配信された。
   
 同じディックの小説、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?/原題: Do Androids Dream of Electric Sheep?」(1968年刊)の映画化作品である「ブレードランナー/原題:Blade Runner」(1982公開)を監督した「リドリー・スコット/Ridley Scott」が製作総指揮、「Xファイル・シリーズ」の「フランク・スポトニッツ/Frank Spotnitz」が脚本兼任で、スコットと共に製作総指揮を担当しているのだからつまらないわけがない。
   
 第二次世界大戦で敗れた1960年代のアメリカの大部分は、ナチス・ドイツに併合され、世界的な大ナチス帝国の一部となり、西海岸は日本の傀儡国家が統治し、両国の中間には中立地帯がおかれている。世界の大半は、日本とナチス・ドイツに支配され、両国は表向きの友好関係の陰で冷戦状態にある。アメリカでは両国に抗するレジスタンス運動がひそかに広がる。サンフランシスコとニューヨーク、そして中立地帯を主な舞台とし、体制を転覆させようとする、あるいは守ろうとするアメリカ人、日本人、ドイツ人たちによる群像劇である。「高い城の男」と呼ばれる謎の人物が収集する、自分たちの歴史とは全く異なる現実を撮影した謎のフィルム「イナゴ身重く横たわる」が出回り、フィルムを巡る争いが人々を巻き込む。こんなストーリー展開であるが、設定や人物名など多くが原作とは異なり、原作にない内容が大幅に追加されている。
     
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 高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)
 フィリップ・K・ディック
 早川書房







   
  
 「もしも枢軸国が連合国に勝利していたら」という、「歴史に if はないが、もしあらば」といういわゆる歴史改変SF小説であるが、ドラマの仮想世界では、原作にはほとんど出てこなかった史実の世界が絡み、そのパラレル・ワールドが、謎解きのキーワードとなっている。日本人、日本の文化の描き方に多少の違和感はあるが、それを除けば、サスペンス満載で、飽きさせない第一級のエンタメ超大作であった。しかしまあ、お金がかかっていますね。
     
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 そして音楽的な遊びの発見がひとつ。このドラマのオープニング流れるのは、ご存じ「エーデルワイス/Edelweiss」。作曲「リチャード・ロジャース/Richard Rodgers」、作詞「オスカー・ハマースタイン2世/Oscar Hammerstein II」のゴールデン・コンビで、映画「サウンド・オブ・ミュージック/Sound of Music」(1965)で使われた有名な曲。ところが、クレジットを見ると、作詞・作曲「ヘンリー・ジャックマン/Henry Jackman」、「ドミニク・ルイス/Dominic Lewis」とあるではないか。どういうことだ ・・・。しばらく疑問に思っていたのだが、シリーズを見終わって気がついた。  

 映画「サウンド・オブ・ミュージック」でこの歌を歌うのは、「ゲオルク・フォン・トラップ/Georg Ludwig von Trapp」大佐役を演じた「アーサー・クリストファー・オーム・プラマー/Arthur Christopher Orme Plummer」。トラップ大佐は、実在したオーストリア=ハンガリー帝国海軍将校で、第一次世界大戦の英雄。1938年のナチスドイツのオーストリア併合を機にアメリカへ家族と共に亡命し、彼のファミリー・ストーリーを元に、1959年にブロードウェイ・ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」として製作されたという。
     
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 「エーデル・ワイス/Edelweiss」は、ドイツ語で「気高く白い花」という意味。「リチャード・ロジャース」と「オスカー・ハマースタイン2世」は、ナチス・ドイツに屈しなかったトラップ大佐とその一家の高潔さを「エーデル・ワイス」という曲に込めたのだ。まさしくこのTVドラマのオープニングにふさわしい選曲なのだ。
  
 そして疑問の作詞・作曲者。ナチスや日本に抵抗する仮想世界のテーマ曲なのだから、「エーデル・ワイス」をテーマ曲にしたことには深い意味があったと理解できる。しかし、この「ヘンリー・ジャックマン & ドミニク・ルイス/Henry Jackman & Dominic Lewis」は、調べるとドラマの音楽を担当した実在するイギリスの作曲家らしい。しかし、クレジットに出てくる以上、著作権の問題はどう解決したのだろうか、疑問は残る。
  
 思うに、ナチが勝利した世界においては、トラップ大佐やその家族は存在していなかったかもしれない。ましてや、反ナチミュージカル、映画の「サウンド・オブ・ミュージック」も、そのテーマ曲である「エーデル・ワイス」も存在してないはず ・・・。だから、ドラマの音楽を担当を「エーデルワイス」の作詞作曲としたのであろう。歴史改変SF的仮想世界におけるロジックとしての配慮は効いているが、遊び心というか、ひねりというか、それならばむしろ、まったくの架空の反体制音楽家として、ドラマのどこかの場面に登場させたほうが、ひねりが効いていたように思うのだが ・・・。
    
 かって、ナチス下のヨーロッパでも中立国であったスウェーデン出身のシンガー・ソングライター「ジャネット・オルソン/Jeanette Olsson」を起用した「エーデルワイス」。ここにも製作者の遊び心、意図が見て取れる。ここでは作詞・作曲者は、あえてドラマの意向を尊重しておきます。
   
【 Edelweiss 】 by Henry Jackman & Dominic Lewis
   
「♪ Edelweiss, Edelweiss     エーデルワイス、エーデルワイス    
   Every morning you greet me  毎朝私に挨拶してくれる
   Small and white clean and bright  小さくて白くて清々しく明るい
   You look happy to meet me  私会えてうれしそうに見える 
   Blossom of snow may you bloom and grow 雪の花のように咲いて育っていく
   Bloom and grow forever      永遠に咲いて育っていく
   Edelweiss,Edelweiss       エーデルワイス、エーデルワイス
   Bless my homeland forever.   わが祖国を永遠に祝福してほしい
    
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ♪」
   
     
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 Edelweiss
 Jeanette Olsson
 Amazon Content Services






     
「Edelweiss(openning)- The Man in The High Castle」  
          
    


     


by knakano0311 | 2020-09-01 00:15 | JAZZ的トリビア | Comments(0)
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