本屋をぶらっとしていたら、懐かしい名前が目についた。グラフィック・デザイナー、居酒屋探訪家としても知られる「太田和彦」氏。彼の文庫本の新刊、「月の下のカウンター」が書棚に並んでいたからである。彼とは、長野県松本深志高等学校で1年の時の同級生である。2年、3年は別のクラスだったので、それほど親しくはなかったが、同じ3月生まれであったのと、印象が強かったのでよく覚えている。
我が母校は、当時としては、非常に自由で闊達な雰囲気の高校で、たしか映画館、一部の喫茶店はOKであったと思う。そんなわけで高校入学したての私は、すぐ洋楽、洋画に目覚めたが、そんな中で、太田君は、「JAZZはやっぱりウェスト・コーストだ、ディヴ・ブルーベックが一番」なんて言っていたから、びっくりしたことをはっきりと覚えている。のちに出演していた居酒屋探訪TV番組のオープニングが「テイク・ファイヴ/Take Five」だったような気がするが、そんなことも影響しているのかも。
そして、高校での1年が過ぎ、2年生からはクラス替えだというので、記念文集を作ろうという話になり、表紙のデザインや文集のタイトルなどを担当したのが彼。たしか、白地に朱色の四角がデザインされ、「歌う風」と名付けられた文集であった。中身は全く覚えていないが、あの表紙の素敵なデザインとタイトルは、今でも強く印象に残っている。中学・高校時代から美術が好きで、美術クラブに所属し、のちに「東京教育大学(現・筑波大学)教育学部芸術学科」に進学し、グラフィック・デザインを学び、「資生堂」にデザイナーとして入社し、活躍した彼の才能の片鱗がもう顕れていたのだろう。
しばらくの時をおき、彼の名前を目にしたのは、社会人になってから。雑誌「話の特集」のグラビアだった。何の写真かはもう覚えていないが、写真家の「十文字美信」と組んでの作品であった。その後、居酒屋探訪TV番組や、居酒屋に関する多くの著作で、彼の名を目にすることになる。一昨年、東京での卒業55周年パーティで元気な姿を見かけた。
「月の下のカウンター」(小学館文庫)。彼の故郷への想い、「松本民芸家具」とかかわる彼の祖父や、私の実家のすぐ近くにあり、帰省の折よく訪れていた「松本民芸館」など話を読んだ後、60年前の高校入学式の古い写真を引っ張り出してきた。少なくとも私の幼い表情には、「青雲の志」など全く読み取れないが、緊張した面持ちの私と彼が写っていた。
月の下のカウンター (小学館文庫) 太田 和彦 (著) 彼が選曲・監修。デザインしたCD、「JAZZ at 居酒屋 vol.1/JAZZ at IZAKAYA Vol.1」(2006)から2曲ほど。「ケニー・ドリュー・トリオ/Kenny Drew Trio」の「星に願いを/When I Wish Upon A Star」と「ケニー・ドーハム/Kenny Dorham」の「クレイジェスト・ドリーム/Craziest Dream」。
JAZZ at IZAKAYA Vol.1 太田和彦 選曲・デザイン・監修 ビクターエンタテインメント オリジナルは、「THE KENNY DREW TRIO」(1956)。パーソネルは、「Kenny Drew(piano)」、「ポール・チェンバース/Paul Chambers(bass)」、「フィリー・ジョー・ジョーンズ/Philly Joe Jones(drums)」。
The Kenny Drew Trio ケニー・ドリュー・トリオ/Kenny Drew Trio Ojc 「The Kenny Drew Trio - When You Wish Upon A Star」 VIDEO アルバムは、「静かなるケニー/Quiet Kenny」(1960)。
QUIET KENNY ケニー・ドーハム/Kenny Dorham CONCO 「I Had The Craziest Dream - Kenny Dorham」