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大屋地爵士のJAZZYな生活

炭焼き入門講座(2) クヌギをどう育てている

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 立派な「台場クヌギ」ですね。川西市の中心部、「キセラ公園」にある黒川地区から移植された「台場クヌギ」です。一体、樹齢は何年ぐらいでしょうか。

 炭焼き入門講座第2弾は、「クヌギをどう育てている」です。江戸時代の文献で、「一庫一番、佐倉が二番」といわれた「一庫炭(池田炭)」の原材料の「クヌギ」を育てる話です。
 
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 木であれば、どの木でも「炭」になりますが、古来より、炭材は、中国が原産地とされる「クヌギ(椚、橡)が最高であるとされ、人の手によって、江戸末期頃から盛んに植林されるようになりました。我々の活動拠点のある一庫地域も、昔は炭焼きが盛んで、古くから付近の山に「クヌギ」が植えられて、「炭焼き」を生業としており、その後の燃料革命によって炭焼きが衰退し、またダム建設によってかっての里山が放棄され、その後、県によって公園化された現在でも、この公園に多くのクヌギ林が残り、山中のいたるところに、昔の人が使った炭窯の跡が残っています。

 「菊炭」と呼ばれる断面が菊の花のように美しい「炭」は、「千利休」や「豊臣秀吉」にも最高級の「茶炭」として、供給していたといわれ、現在でも、茶道各派の「炭手前」で重用されている。「菊炭」は、「クヌギ」を原材料とするため、その高く売れる付加価値を、当時の人は知っていたのではないかと思われます。

 また、この地には延長数10㎞にも及ぶ、多田銀銅鉱脈が走っており、奈良時代から銅を算出していたという。この地で採掘した銅が、この地の炭で精錬され、「東大寺の大仏建立に寄進された」という伝承もあります。山下にある「川西市郷土館」は、かって多田銀山の精錬所を営んだ旧「平安(ひらやす)家」住宅を利用したものであることからも、かっての銅の精錬の技術とそれに必要な炭との強い関連性を窺わせます。
  
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 さて、その「クヌギ」。「ドングリ」から「クヌギ」を育てると、炭材として手ごろな太さに育つまで、10~15年かかるといわれています。一方、成長した「クヌギ」を地面から120㎝ほどの高さで伐ると、「クヌギ」は萌芽力が強いので、株元から勢いよく萌芽します。これを下刈りなどの手入れをすると、7~8年で直径10センチ程度の炭材として適当な太さに育ちます。こうして育てた「クヌギ」を「台場クヌギ」と呼び、この地域特有のものです。
  
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 こうした伐採のローテーション(輪伐という)を、ほぼ10年ごとに繰り返すことによって、土地の少ない山間部でも、一定の面積のクヌギ林があれば、長期間に亘って、効率的に安定して炭材を確保することができるという、まさに驚くべき「先人の知恵」です。黒川地区では、この台場クヌギ林の輪伐が作り出す濃淡のあるパッチパークのような光景が広がり、「日本一の里山」とよばれる景観を作り出しています。

 伐採を繰り返すことによって株元が太くなりますが、これを「ダイコ仕立て」といい、冒頭の写真に見て取れます。黒川地区には100年を超える「台場クヌギ」が生育していて市の天然記念物に指定されています。

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 われわれも、夏はクヌギ林の下刈りなどをして、生育を妨げる外来種などを駆除しているが、むしろ最近は、鹿の食害に頭を痛めています。鹿の大好物である発芽した「台場クヌギ」の若葉が繰り返し食べられてしまい、枯死。その結果、輪伐のローテーションも崩れ、何よりも「台場クヌギ」からの炭材の供給が危機に瀕しています。 

 苗を植林し、ツリー・シェルターで保護し、伐採した高木や台場クヌギを金網で保護するなどの対策を実施していますが、効果が出て、林が元通りに復活するには、まだ何年もの時間が必要です。クヌギを育てて、伐採して、炭を焼く。年単位の時間がかかります。これが「里山時間」でしょうか。

 「炭焼き入門講座(2) クヌギをどう育てている」でした。
  

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 「ゆりかご/cradle」の動詞形は「育てる」という意味がある。そこで今宵の曲は、「Cradle Song For Mattia」。「マティアへの子守唄」というでしょうか。イタリアが生んだジャズ・ピアニストの巨匠、「エンリコ・ピエラヌンツィ/Enrico Pieranunzi」と、欧州最高峰との呼び声もあるベルギーのジャズ・トランペッター、「バート・ヨリス/Bert Joris」とのデュオ・アルバムから。タイトルも、「余韻、残光、夕映え、名残」という意味の「Afterglow」(2021)。
 
 きらめくピアノと柔らかいラッパの音色。欧州の空気感、雰囲気がたっぷりと醸し出されたアルバム。

  
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 Afterglow
 Enrico Pieranunzi & Bert Joris
 Challenge







「Cradle Song for Mattia - Enrico Pieranunzi & Bert Joris」
  
      








by knakano0311 | 2021-11-12 00:00 | 炭焼き小屋から | Comments(4)
Commented by ShiroYuki_Mot at 2021-11-12 18:11 x
台場椚にしても、養蚕の桑にしても、異形を感じて仕舞います。
伝統技術としては素晴らしいのは分かりますが、
植物として見ると、可哀想な気もします。
はたらけど はたらけど猶わが生活(くらし)樂にならざり ぢつと手を見る  を思い出します。
まぁ、其れ以上に生命力のある樹種なので、充分に堪え得るのでしょうけれど。

脱線して申し訳ありませんでした。 陳謝。
Commented by reikogogogo at 2021-11-12 21:34
凄いですねクヌギの木って、
途中から枝葉は出ないのですか?薪が俵の中で1メートルもの長さで揃って焼けてるのは?
枝の部分ではないですよね、細い木を伐ってしまう訳ですか?
Commented by knakano0311 at 2021-11-12 22:57
> ShiroYuki_Motさん  
コメントありがとうございます。クヌギですが、根元で伐ってそのあと朽ちらせるよりも、台場クヌギにして、100年以上も何回も再生して活かして使うのが、クヌギのためにも人のためにもいいと思いますが ・・・。
Commented by knakano0311 at 2021-11-12 23:13
> reikogogogoさん  
説明が難しいのですが、もちろん木ですので枝葉は普通に出ます。炭として利用するので、余り太い所や細い所は基本的には使い物になりません。特に茶の湯で使う菊炭は寸法の規定があり、また一般用でも手ごろの太さの炭が必要になります。そこで、一度高木を伐るとその株から新しい複数本の枝が成長し、10㎝程度のてごろな太さになったら、炭材として使うために伐ります。すると同じ株からまた新しい枝が出て、それをまた伐って ・・・。これを10年ほどのサイクルで何回も繰り返しますが、新しい枝が生える母体の株は、どんどんと成長して、直径1m、樹齢100年を超えるものもあります。つまり、100年にわたって炭材を提供してくれたわけです。

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