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大屋地爵士のJAZZYな生活

これからは「深いじじい」を目指す 

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 月に1回程度、作詞家「松本隆」のエッセイ、「書きかけの ・・・」が、土曜日の朝日新聞別版「be」に掲載されている。もう7回ほど掲載されたか。私が彼に興味を持ったのは、2013年に、松本が東京を離れ、神戸へ移り住んだということで親近感を覚えたこともあるが、その50年の作詞家生活の中で、「筒美京平」とのコンビで、合計380作品を超えるという作品送り出し、シングル総売上5千万枚という驚異的なヒットを生み出した人物の思考過程を垣間見てみたいと思ったからである。


 「松本隆」。1949年、東京生まれ、73歳。慶大在学中の1969年に、「細野晴臣」、「大滝詠一」、「鈴木茂」とバンド、「エイプリル・フール(後の”はっぴいえんど”)」を結成し、ドラムと作詞を担当。81年に「ルビーの指環」(寺尾聡)、82年に「小麦色のマーメイド」(松田聖子)で日本レコード大賞作詩賞を受賞。その後の活躍はご存じの通り。「阿久悠」亡きあと文字通り日本のトップであろう。

 7月30日の掲載記事にはこんな一節が ・・・。『「赤いタオル」という詩が好きだ。新川和江さんの詩 ・・・・ 赤く色づく植物もきれいだけど、旅先でいちばん目にしみたのは、東北のとある窓辺に干されていた赤いタオルだった―。独特の視点で書かれた作品を読んでいると、花よりももっと美しい、人間の生活の美しさを切り取って見せてくれるもの、それが詩なんだと思ったりもする。』


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 現在は自主レーベル「風待レコード」を設立し、若手の育成に努めながら、活動中であるというが、たしか45周年の頃であったか、何かのインタビューで、今後について問われると、『これからは「深いじじい」を目指す。「量より質」という原点に返る。良寛や西行、一休禅師のような「深いじじい」を目指す」と答えていたのが印象に残っている。
  
 さらに、それから5年、2021年に、「松本隆」の50年の軌跡を追うCDと評論が、同時にリリースされた。音楽評論家、「田家秀樹」選曲によるコンピCD、「風街とデラシネ ~ 作詞家・松本隆の50年 [Disc 1、2]」(2021)、同じく「田家秀樹」著、「風街とデラシネ 作詞家・松本隆の50年」(2021年KADOKAWA)である。
  
 前者は、「田家秀樹」が、2019年1月から2021年4月まで、「スタジオ・ジブリ」の月刊誌「熱風」で、「松本隆」およびアーティストのインタビューを交ぜながら紹介した楽曲を集めたコンピレーションCD。後者は、時代を超えて歌い継がれる名曲の数々は、なぜ一人の作詞家から生まれたのか、「大瀧詠一」、「筒美京平」、「松田聖子」らとの知られざるエピソードを含め、コンピレーションCDに収録された曲の裏側や背景について、「松本隆」本人へのインタビューと証言者たちの言葉から描き、不世出の作詞家の系譜とその本質に迫っていく評論。

 CD、評論、共に力作である。「風街とデラシネ」というタイトルは、「はっぴいえんど」の2ndアルバム、「風街ろまん」(1971)と、「松本隆」が、全曲、歌詞を提供したシャンソン歌手、「クミコ」のアルバム、「デラシネ/deracine」(2017)に因んだものだということがわかる。すなわち、始まりの過去とこれからのスタートの現在。すなわち「田家秀樹」は「松本隆」の50年にわたる創作における思考過程を、33の曲と評論で明らかにして見せたのだ。垣間見てみたいと思った私の願いは叶えられた。

   
《CD収録曲》

DISC 1
1. 暗い日曜日/エイプリル・フール
  作詞:松本 隆 作曲:細野晴臣 編曲:エイプリル・フール
2. 風をあつめて/はっぴいえんど
  作詞:松本 隆 作曲:細野晴臣
3. 勝手にしやがれ/南 佳孝
  作詞:松本 隆 作曲:南 佳孝 編曲:松本 隆 矢野 誠
4. 夏色のおもいで/チューリップ
  作詞:松本 隆 作曲:財津和夫 編曲:川口 真 チューリップ
5. 組曲「噫無情(ああむぢゃふ)」あがた森魚
 嘆きの舞姫(バレリーナ)~イカリの水夫
  作詞:松本 隆 あがた森魚 作曲:あがた森魚 編曲:矢野 誠
6. 乱れ髪/柳田ヒロ
  作詞:松本 隆 作曲・編曲:柳田ヒロ
7. 想い出の散歩道/アグネス・チャン
  作詞:松本 隆 作曲:馬飼野俊一 編曲:キャラメル・ママ
8. 雨だれ/太田裕美
  作詞:松本 隆 作曲:筒美京平 編曲:萩田光雄
9. 8分音符の詩/鈴木 茂
  作詞:松本 隆 作曲・編曲:鈴木 茂
10. 小さな歴史/森山良子
  作詞:松本 隆 作曲:森山良子 編曲:鈴木慶一とムーンライダース
11. ふるさとをあげる/岡田奈々
  作詞:松本 隆 作曲:実川 俊 編曲:高田 弘
12. てぃーんず ぶるーす/原田真二
  作詞:松本 隆 作曲:原田真二 編曲:鈴木 茂 瀬尾一三
13. セクシャルバイオレットNo.1/桑名正博
  作詞:松本 隆 作曲:筒美京平 編曲:桑名正博&Tear Drops 戸塚 修
14. 五線紙/竹内まりや
  作詞:松本 隆 作曲・編曲:安部恭弘
15. 湘南ひき潮/加山雄三
  作詞:松本 隆 作曲:弾 厚作 編曲:瀬尾一三
16. ルビーの指環/寺尾聰
  作詞:松本 隆 作曲:寺尾 聰 編曲:井上 鑑
17. ヨコハマ チーク/近藤真彦
  作詞:松本 隆 作曲:筒美京平 編曲:馬飼野康二
18. 赤いスイートピー/松田聖子
  作詞:松本 隆 作曲:呉田軽穂 編曲:松任谷正隆
19. Tシャツに口紅/ラッツ&スター
  作詞:松本 隆 作曲:大瀧詠一 編曲:井上 鑑

DISC 2
1. 探偵物語/薬師丸ひろ子
  作詞:松本 隆 作曲:大瀧詠一 編曲:井上 鑑
2. 1969年のドラッグレース/大滝詠一
  作詞:松本 隆 作曲:大瀧詠一
3. モノトーン・ボーイ/レベッカ
  作詞:松本 隆 作曲:土橋安騎夫 編曲:REBECCA
4. 炎の舞/中山美穂
  作詞:松本 隆 作曲:筒美京平 編曲:船山基紀
5. 仮面の告白/中原理恵
  作詞:松本 隆 作曲:穂口雄右 編曲:矢野 誠
6. 菩提樹/五郎部俊朗
  作詞:Johann Ludwig Wilhelm Muller 作曲:Franz Peter Schubert
  日本語詞:松本 隆 ピアノ:岡田知子
7. 悲しみの果て/大竹しのぶ
  作詞:松本 隆 作曲:Ludwig van Beethoven 編曲:長生 淳
8. 魂を抱いてくれ/氷室京介
  作詞:松本 隆 作曲:氷室京介 編曲:佐橋佳幸
9. 硝子の少年/KinKi Kids
  作詞:松本 隆 作曲・編曲:山下達郎
10. 水中メガネ/Chappie
  作詞:松本 隆 作曲:草野正宗 編曲:大平太一
11. 代官山エレジー/藤井 隆
  作詞:松本 隆 作曲:堀込高樹 編曲:CHOKKAKU
12. 夜行性/オリジナル・ラヴ
  作詞:松本 隆 作曲:田島貴男 編曲:Original Love
13. 幸魂奇魂(さきみたまくしみたま)/藤舎貴生
  作詞:松本 隆 作曲:藤舎貴生 作調:藤舎呂悦 藤舎貴生
14. 輪廻/クミコ with 風街レビュー
  作詞:松本 隆 作曲:菊地成孔 編曲:冨田恵一


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 風街とデラシネ〜作詞家・松本隆の50年
 田家 秀樹/松本隆
 Various Artists
 ソニー・ミュージックダイレクト






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 風街とデラシネ 作詞家・松本隆の50年
 田家 秀樹 [著]
 KADOKAWA











 CDに収録された33曲から、曲を選ぶとすれば、はやり「風をあつめて/はっぴいえんど」と、作曲は「菊地成孔」である「輪廻/クミコ with 風街レビュー」の2曲であろうか。「輪廻」のオリジナルが収録されている「デラシネ/deracine」は、「松本隆 作詞家活動四十五周年記念オフィシャル・プロジェクト」の一環として、全曲、歌詞を提供したアルバムという。
   

【 風をあつめて 】 作詞:松本隆  作曲:細野晴臣
   
「♪ 街のはずれの
   背のびした路次を 散歩してたら
   汚点(しみ)だらけの 靄(もや)ごしに
   起きぬけの露面電車が
   海を渡るのが 見えたんです
    
   それで ぼくも
   風をあつめて 風をあつめて 風をあつめて
   蒼空を翔けたいんです
   蒼空を
   
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  ♪」
  
  
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 風街ろまん
 はっぴいえんど
 ポニーキャニオン






  
「はっぴいえんど - 風をあつめて」
  
   
【 輪廻 】  作詞:松本隆 作曲:菊地成孔

「♪ 枯葉が散り 風に舞い大地に
   触れる音が鼓膜に届いたの
   あれは命の微かな悲鳴
   葉の雨に抱かれ
  
   人差し指 頬のカーブ撫でて
   こんな風に巡り合えたことも
   生まれる前に決まってたこと
   そう 運命
  
   ・・・・・・・・・・・・・・ ♪」
   

   
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 デラシネ/deracine
 クミコ
 日本コロムビア









「輪廻 - クミコ with 風街レビュー」
  

     
 

 因みに、「デラシネ (déraciné) 」とは、フランス語で「根なし草」、転じて故郷や祖国から離れたもしくは切り離された人、漂泊者を意味する。「五木寛之」のフランスの5月革命を描いた小説に、「デラシネの旗」がある。刊行されたのは、バンド「エイプリル・フール」結成の1969年。1969年は、私が就職した年。ノンポリであったが、70年安保の学生運動をほぼリアルタイムで経験していた私は、当然「デラシネの旗」は読んでいた。アルバム・タイトルにそれをダブらせたかと思った。同じことを思った田家は、松本に「この小説を知っていて使わずに温めていたのか」という質問をしたが「全く知らなかった」という答え。残念私の深読みであった。
 
 評論の最終章は、「ヘミングウェイや在原業平とか芭蕉、西行法師もそうだし、僕の好きな詩人はみんな晩年はさすらっている。僕の人生の目標ですね。」という松本の言葉で結ばれていた。さて、3歳年上の私は ・・・。

  


  

by knakano0311 | 2022-08-14 00:00 | 音楽的生活 | Comments(0)
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