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大屋地爵士のJAZZYな生活

「いもたこなんきん」なシネマ  ~ ああ母は強し! ~

年末の記事「我がシネマな一年」で、映画を「映画館に見に行く回数が劇的に増えた」と書いたが、それは我が伴侶の「いもたこなんきん」にも大きな影響を与えたようである。はっきりいえば、彼女は「映画大好きおばさん」になってしまったのである。今年も週一のペースで、「夫婦50」を利用しせっせと見ています。2007年の「私が観てよかったと思う映画」のキーワードのうちのふたつは「女性」と「家族の絆」でしたが、夫婦共通のキーワードとして、その傾向は、今年も続いています。

そのキーワードにぴったりの、彼女が感動した(勿論わたしも)「いもたこなんきん映画」が三作品立て続けに公開されました。サラエボ生まれの新進女性監督、ヤスミラ・ジュバニッチ作品「サラエボの花」、サム・ガルバルスキ監督「やわらかい手」、そして山田洋次監督、吉永小百合主演「母べえ」の三作です。

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まず、ベルリン映画祭で金熊賞ほか3部門を受賞し、そのほかの映画祭でも大絶賛されたヒューマンドラマ「サラエボの花」。原題は、「GRBAVICA/GRBAVICA;THE LAND OF MY DREAMS」で 、ラストシーンでうたわれるボスニア讃歌の題名である。ボスニア紛争の傷あとが残るサラエボを舞台に、ストーリーが始まってすぐ、観客には想像がつく秘密を抱える母親と出生の真実を知らされる娘の再生と希望の物語が展開する。
12歳の娘サラ(ルナ・ミヨヴィッチ)とつましく暮らすエスマ(ミリャナ・カラノヴィッチ)は、修学旅行を楽しみにするサラのため旅費の調達に奔走している。そんな中、戦死者の遺児は修学旅行費が免除されると知ったサラは、戦死したと聞かされていた父親の戦死証明書を学校へ提出するようエスマに提案するが……
重いテーマでありながら、戦争や暴力シーンを出すこと無しに、必死に生きるエスマの日常を丹念に描き、普通の生活を維持することの厳しさと心の底に横たわる悲しみを表現していく。静かな語り口だけにかえって彼女の悲しみや想いや愛情がリアリティをもって伝わってくる。真実を告げられてやり場のない怒りをぶつける娘、そして傷つく母。二人の思いが通じ合う希望のラスト・シーン。去年公開された「あなたにしか言えない秘密のこと」につづくボスニア内戦をテーマにした傑作。

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60年代の伝説の女神「マリアンヌ・フェイスフル」(わたしはよく知りませんが)が、39年ぶりに主演した女性讃歌、「やわらかい手」。ロンドン郊外に平凡にくらす中年主婦マギーが、孫の不治の病を告げられ、たった一つ命を救う可能性のある道が、外国での手術だといわれる。短期間で、その多額の手術費用を稼ぐため、思わず飛び込んだ性風俗の世界。そこで人間として、そして女性として、生き生きと輝いていく様を描く異色作。この映画も難しいテーマを扱いながら、ユーモアとともに女性讃歌を鮮やかに描き出す。背筋がすっと伸びた歩き方、まっすぐ前を見詰める視線、物に動じない態度に、決して卑屈にならない彼女の生き様が描かれる。マリアンヌ・フェイスフルのこれ以上はないと思われる演技と、「愛する孫のためなら何だって出来る」という女の強さに感動。

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山田洋次監督が昭和初期につつましく生きる家族の姿をとらえた感動の家族ドラマ「母べえ」。思想犯で逮捕されたドイツ文学者の夫・滋のいない家族を支える強くてけなげな母親と二人の娘。戦争に傾いていく昭和15年ころの世相に翻弄されながらも懸命に生き抜く人々。吉永が演ずる「野上佳代」の最後の「生きてるうちに滋さんに会いたかった」という言葉がなによりもこの映画のメッセージを雄弁に物語る。そして、戦争の悲劇を描きながらも、平和や家族の大切さ、幸せとは何かを、改めて思い出させてくれる現代の家族へのメッセージ。前作「武士の一分」をはるかに凌ぐ佳作。我々より1世代上の人には、実体験として相当なリアリティがあるだろうが、勿論、団塊の世代のサユリストも必見!

これら、三作品に共通して言えるのは、声高に反戦や世の中の不条理を唱えるわけではない。ごく普通の平凡な人々の暮らしぶりや家族におこるいろいろな出来事を丹念に描くことによって、作り手の想いが次第に凝縮して、大きなメッセージとなり、観る者を感動させる。この三作とも、多分年末の「我がシネマな一年・2008版」に載りそうな気がするほどの佳作である。それにしても「ああ!母は強し!!」 


さあ、CDのおすすめは、ビリー・ホリディ。売春罪で投獄され、麻薬容疑で逮捕され、人種差別に苦しんだ「ビリー・ホリデイ」のドラマチックな人生は、かってダイアナ・ロスの主演で映画化された(「ビリー・ホリディ物語/奇妙な果実」)。様々なハンディキャップや偏見をのりこえ、女性JAZZシンガーの最高峰として不動の位置を築いた「ビリー・ホリディ」。聴く人の心を揺さぶってくれる名作アルバムから。

Lady Day: The Best of Billie Holiday
Billie Holiday / / Columbia/Legacy
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レディ・イン・サテン+4
ビリー・ホリデイ / / ソニーレコード
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「I'm A Fool To Want You - Billie Holiday」

          


女性音楽ジャーナリストによる評論集、「ジャズに生きた女たち」のビリー・ホリディ評も興味深い。

ジャズに生きた女たち (平凡社新書 (406))
中川 ヨウ / / 平凡社
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by knakano0311 | 2008-01-31 18:03 | いもたこなんきん | Comments(0)
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