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大屋地爵士のJAZZYな生活

2008年 07月 18日 ( 1 )

映画の想像力  ~最近のジジイ映画から~


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最近観た映画の感想として、「現実の事象は、映画の想像力をはるかに超えているのではないか」あるいは「これだけCGが発達して、何でも可能になったかのように見える映画の方が、実は現実に追いついていっていないのではないか」と感じたという話。

ロブ・ライナー監督「最高の人生の見つけ方」。 原題は、「THE BUCKET LIST/棺桶リスト」。 ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンという2大名優演ずる、死を意識した初老男性2人の希望に満ちた余生を描く人間讃歌。病室で知り合った2人が意気投合し、“やりたいことリスト”に基づき、残りの人生を生き生きと駆け抜ける、感動ストーリー。こんなコピーに惹かれてかなり期待してみた「ジジイ映画」であった。ストーリーは、 仕事に人生をささげた大富豪エドワード(ジャック・ニコルソン)と、家族のために自動車整備士として地道に働いてきたカーター(モーガン・フリーマン)は、入院先の病室で知りあった。共に余命は6か月。やりたいことをすべてやり尽くそうと決意し、「死ぬまでにやりたいことリスト(棺桶リスト)」を書き出して、病院を抜け出し、さまざまなことに挑戦する。まさに感動のジジイ映画になるはずであった。
が、結論からいうと脚本がまったく凡庸。リストの中身からして、スカイ・ダイビング、サファリ・ハンティング、カーレース、ヒマラヤ登山・・・・・。いずれも金さえあれば普通の人でも実現可能なものばかり。「世界最高の美女とキスをする」にいたっては、映画の序盤の段階でネタばれして容易に想像がつく。とはいえ、2人の名優のみせるいぶし銀の演技がこの凡庸なる脚本をどうにか救ってくれている。ジャック・ニコルソンは、天邪鬼で、助平で、わがまま一杯の、素直でない、しかしどこか憎めない初老の男を演じたら相変わらずの最高のはまり役、自動車整備工カーターの誠実さはフリーマンの「地」ではないかと思える自然な演技。

しかし、「死ぬまでにしたいこと」の殆どが、現実に金で片がつくのでは、なんという想像力の貧困さ。波の力で進む世界初の波浪推進船「SUNTORYマーメイド2号」でハワイ-日本間約7000キロの単独航海に挑んで、110日目に見事ゴールした、堀江謙一さんは69歳。堀江さんの単独での長距離航海成功は、1962年の小型ヨットによる太平洋横断以来、11回目になるという。70歳、75歳と2度のエベレスト登頂に挑んで成功した三浦雄一郎氏。この堀江氏、三浦氏二人の冒険のほうが「棺桶リスト」などより、よっぽど夢があるし、我々を勇気付けてくれる。現実のほうが間違いなく映画を超えているのだ。


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次は、アカデミー賞受賞作、コーエン兄弟監督「ノーカントリー」。原題は、「NO COUNTRY FOR OLD MEN/年寄りの居場所はない」。 1980年代のテキサスを舞台に、麻薬密売に絡んだ大金を偶然手にした男が非情な殺し屋に追われるサスペンス。大金を手にした男を映画『アメリカン・ギャングスター』の「ジョシュ・ブローリン」が、彼を追う殺し屋を映画『海を飛ぶ夢』の「ハビエル・バルデム」が、殺し屋を捕らえようとするリタイアを目前にした初老の保安官を「トミー・リー・ジョーンズ」が演じる。独特の緊迫感と恐怖を演出し、金と欲のからむ人間と社会の本質と、それによって引き起こされる不条理な、理不尽な殺人には立ちすくむしかないのかという二つのテーマをあぶり出す。

オカッパ頭という髪型をしたこの殺し屋は、高圧ボンベ付きの家畜用スタンガンで、鍵穴も人間の額も家畜と同じように無機的に撃ち抜く。感情や苦悩はまったく介在しない、まるでビジネスであるかように・・・。この異様で、異形の圧倒的な存在感を持つ殺し屋に観客は画面に釘付けになってしまう。次に何が起こるのか、何をするのかということに全神経が集中する。
この映画は、バイオレンス映画としては異論を挟む余地はないほどの「傑作」であるが、原題に込められたもう一つのテーマ、「すさまじい不条理が支配するこの現代に、老人は、なす術もなく立ちすくむしかないのか」は、この異形のキャラクターと圧倒的な迫力で迫るヴァイオレンスのまえに、すっかりかすんでしまったように思える。

無策に立ちすくむ年金医療制度危機や、非正規雇用が主となった若者の不安定な生活環境を遠因とするあいつぐ無差別殺人などに象徴されるわが国の現実を見るとき、静かなる、それでいてすさまじいばかりの社会の破壊を進行させている、オカッパ頭の異形の殺し屋は一体誰なのか、と問いたくなる。映画の想像力は現実に追いついていっていないのか・・・。

そして、この国も「NO COUNTRY FOR OLD MEN」なっていくのか・・・・・・。
by knakano0311 | 2008-07-18 18:24 | シネマな生活 | Trackback | Comments(0)