ニューヨークを訪れた英国人紳士の違和感、戸惑いを歌った「スティング/Sting」のヒット曲がある。「Engrishman In New York」。いま永田町の中心に立って、「You are all aliens in Japan!」とでも叫びたくなる。
この曲が収録されているアルバム「Nothing Like The Sun」は、「ポリス/The Polis」から離れ、ソロ活動を本格化したスティングが、JAZZへの傾倒をいっそう強くした作品で、多くのジャズメンが参加している。「Engrishman ・・」の印象的なSAXは「ブランフォード・マルサリス/Branford Marsalis」。
「♪ Don't know why どうしてかわからないけど
There's no sun up in the sky 空には太陽が見えないわ
Stormy weather ひどい天気だわ
Since my man and I ain't together 彼と私が別れてからは
Keeps raining all of the time ずっと雨が降りっぱなしね
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ♪ 」
ずばり、「贈り物」というタイトルを持つ曲がある。「ギフト(リカ-ド・ボサノバ)/The Gift(Recado Bossa Nova)」。もともとブラジル人の手になる曲らしいが、英語の詞がつけられ、「イーディー・ゴーメ/Eydie Gormé」の歌や、「ハンク・モブレイ/Hank Mobley」の演奏で有名になった曲である。私も知ったのは、「イーディー・ゴーメ」のアルバム、「恋はボサノバ/Blame It On The Bossa Nova」(1963年)であった。しかも、発売当時ではなく、それから大分経った70年代か80年代ではなかっただろうか。知ってしばらく経ってから、「マンハッタン・ジャズ・クインテット(Manhattan Jazz Quintet)」の2作目「枯葉 - Autumn Leaves」(1985年)で再びこの曲を耳にすることになったと記憶している。それ以来好きな曲のひとつにもなっている。
ボサノバの創始者「アントニオ・カルロス・ジョビン/Antônio Carlos Jobim」の言葉である。幼い頃にブラジルの大自然に囲まれ育った彼は、環境問題に対する関心が深く、アマゾンの熱帯雨林を保護するための活動を行っていたという。そしてジョビンの曲には自然を題材にしたり、自然に対する彼の思いを込めた曲が多くある。おいしい水 (Água de Beber / Water to Drink)、波 (Vou te contar / Wave)、三月の水 (Águas de Março / Waters of March)などはその代表であろうし、「Urubu」や「Matita Pere」などのアルバムは自然をテーマにしている。「アントニオ・カルロス・ジョビン―ボサノヴァを創った男」には、自然保護活動を含め、ジョビンの実妹エレーナが語る彼の繊細かつダイナミックな世界観のすべてが語られている。
その「アントニオ・カルロス・ジョビン」に「マイケル・フランクス/Michael Franks」が捧げた歌が、前回のブログで取り上げた「アントニオの歌/Antonio’s Song (The Rainbow)」。その歌詞には、「砂漠」、「雨」、「アマゾン」と言った言葉が出てくるので、マイケルはジョビンの自然への思いや、それが込められた歌を十分に理解していたと思う。その歌詞を読み、また改めてマイケルの歌をじっくり聴いてみて、この歌を聴いていた30数年前の頃の若さや苦さが懐かしくなった。そして、今この歌を「60歳過ぎたら聴きたい歌」にいれてもいいかなと思った。
久しぶりにアルバム「Sleeping Gypsy」をずっと流し続け、YOUTUBEで動画を検索していたら、聞いたことのない女性ジャズ歌手が歌う「アントニオの歌」が眼に留まった。歌手の名は「Live Maria Roggen」。これがまた過度にべとつかず、実にいい味なのである。初めて聞く名前で、アルバムも聴いたこともないが、ノルウェーでは最もリスペクトされているジャズ・ヴォーカリストの一人で、詩人&ソングライターでもあるという。
「 Live Maria Roggen - Antonio's Song 」。2009年8月10日、オスロ・ジャズ・フェスティバルの期間中に、オペラハウスで行われたライブ・コンサートから。Live Maria Roggen;vocal、Jon Eberson;guitar、 Arild Andersen;double bass、Jon Christensen;drums。
「Over The Rainbow/虹の彼方に」。1939年のミュージカル映画「オズの魔法使」で「ジュディ・ガーランド/Judy Garland」が歌った劇中歌。アメリカ人が最も好きなPOPSとしても有名である。「エドガー・イップ・ハーバーグ/Yip Harburg」作詞、「ハロルド・アーレン/Harold Arlen」作曲で、その年のアカデミー歌曲賞を受賞している。
ここではちょっと変わったアップ・テンポのアレンジの「虹の彼方に」を紹介しましょう。「メロディ・ガルドー/Melody Gardot」。視覚過敏症という交通事故の後遺症を背負いながらも、ハスキーで独特のビブラートで優しく包み込むような歌声が魅力の彼女。(拙ブログ「奇跡のシンガー・ソングライター」参照) そのアルバム「My One and Only Thrill」。全編オリジナルの中にあって、ただ一曲ラストのスタンダード「虹の彼方へ」は、ちょっとダークなイメージガルドーとは違って明るい希望を感じさせる佳唱。
一人、隠れ家で静かに酒を飲む。もはや想像でしかなくなったそんなシーンで聴きたいと思う男性ボーカル・アルバムがある(女性シンガーばかりではないのですよ)。「マイケル・フランクス/Michael Franks」の「スリーピング・ジプシー/Sleeping Gipsy」。中でも、マイケルが作曲し、かの「アントニオ・カルロス・ジョビン/Antônio Carlos Jobim」に捧げた歌「アントニオの歌/Antonio's Song (The Rainbow)」は、じーんと胸に沁みる男の曲である。1977年リリースのアルバムながら、いまでも忘れがたい曲。当時は、「ソフト&メロウ、シティ・ミュージック」なんていっていたが、なかなかどうして実にお洒落で、大人のサウンドといえる。
「♪ ・・・・ When most of my hope was gone
Antonio's samba led me
To the Amazon
さて、今年のアカデミー賞で、作品、監督、主演男優、脚本賞に輝いた映画といえば、「英国王のスピーチ」。現イギリス女王の「エリザベス2世」の父「ジョージ6世」にまつわる実話を「コリン・ファース/Colin Andrew Firth」主演で映画化した歴史ドラマ。きつ音障害を抱えた内気なジョージ6世(ファース)が、言語療法士の助けを借りて障害を克服し、第2次世界大戦開戦にあたって国民を勇気づける見事なスピーチを披露して、人心を得るまでを描いた久しぶりに見た重厚で見ごたえのあるドラマ。