洋楽、JAZZの分野に「春の歌」は結構あるが、私の印象からすると、素直に春の訪れを喜んでいる歌は少ないような気がする。有名なスタンダード「春の如く」にしろ、「Spring is here」にしろ、「Spring Will Be A Little Late This Year」にしろ、哀愁や憂いを含んだというか、ちょっと屈折した女心を歌っている。「Spring Blue」とでも言ったらいいのだろうか ・・・。今回とりあげる歌もまさしくそんな歌のひとつ。しかし私が大変気に入っている春の歌の一つでもある。それはあの「ペギー・リー/Peggy Lee」が醸し出す洗練された上品さにぴったりだからである。その歌は、「There'll Be Another Spring」。1959年、マイアミにおけるステージの模様を収めたという「ペギー・リー」と「ジョージ・シアリング/George Shearing」の豪華な共演盤、「美女と野獣/Beauty & The Beast」をもじった「Beauty & The Beat」からのバラードである。
「♪ Don't cry, there'll be another spring 泣かないで、また春は来るわ
I know our hearts will dance again 二人の心はきっとまた踊だすようになるわ
And sing again, so wait for me till then 歌いだすようにもね、だからそれまで待ってね
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ♪」
一転して冬へ後戻ったような天気。午前中は一時雪さえ降った。もちろん積もることはなかったが、こんなことは初めてである。まるで前回のブログで紹介した歌、「Spring Will Be A Little Late This Year」を感じさせるような日だ。昼からは薄日が差してきたので、隣町宝塚市にある「中山寺」へと観梅に出かけた。今年初めてである。
ぜんざいで体を暖めたあとは、音楽で ・・・。たまには男の歌もいいでしょう。男も惚れるビロードの声の持ち主「ジョニー・ハートマン/Johnny Hartman」。題名からして暖かくなるような「スロー・ホット・ウィンド/Slow Hot Wind」。初めて知ったのは、学生時代のよく行ったグリルのマスターのおすすめのアルバム「Voice That Is!」から。今では私が癒される数少ない男性JAZZボーカルである。
あまり知られていない春の歌のスタンダードに、「♪ 今年は春の訪れがすこし遅くなるかも知れない。孤独なわたしの住むこの地にはちょっと遅れるかもしれない。 ・・・ ♪」 こんな歌いだしで始まる美しいメロディを持つロマンチックな歌がある。「Spring Will Be A Little Late This Year」。「サラ・ヴォーン/Sarah Vaughan」、「リタ・ライス/Rita Reys」なども歌っているが、「カーリー・サイモン/Carly Simon」の優雅で美しいデュエットも感動的。アルバムは、「フィルム・ノワール/Film Noir」。1997年リリースのアルバムで、タイトル通り'40~'50年代の古き良き時代の銀幕を彩った犯罪映画の映画音楽をカヴァーしたもの。「Spring Will Be A Little Late This Year」も、「サマーセット・モーム/Somerset Maugham」原作の映画「Chritmas Holiday」(1944年)のために書かれた曲らしい。「カーリー」は、この歌を「ジミー・ウェブ/Jimmy Webb」のピアノ伴奏による美しいデュエットで聴かせる。このアルバムには、なんと「ジョン・トラボルタ/John Travolta」とのデュエットも収録されている。
まさしく、「Spring is here.」。そんな「リチャード・ロジャース/Richard Rodgers」、「ローレンツ・ハート/Lorenz Hart」のゴールデン・コンビの手になる、古い時代の曲であるが、ほろ苦くほんわかしたムードの漂うスタンダード、「Spring Is Here」を歌うのは、「エラフィッツ・ジェラルド/Ella Fitzgerald」、「カーリー・サイモン/Carly Simon」。
【 Spring Is Here 】 作詞;Lorenz Hart 作曲;Richard Rodgers
「♪ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Spring is here, Why doesn't my heart go dancing
Spring is here, why isn't the waltz entrancing
No desire, no ambition leads me
Maybe it's because nobody needs me
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Spring is here
Spring is here
Spring is here
I hear ♪」
そして、この曲をリリカルに奏でるのは、ご存知「ビル・エヴァンス・トリオ/Bill Evans trio」。名盤「ポートレイト・イン・ジャズ/Portrait in Jazz」。1959年にリリースされた「ビル・エヴァンス(p)」、「スコット・ラファロ/Scott LaFaro(b)」、「ポール・モチアン/Paul Motian(ds)」からなるトリオのスタジオ・アルバム。「ワルツ・フォー・デビイ/Waltz For Debby」と双璧を成す彼の代表作である。
その美貌と華麗な歌声で、日本でも高い人気を誇る女性ジャズ・シンガーは、「ソフィー・ミルマン/Sophie Milman」。1983年、ロシアのウラル山脈に生まれ、ユダヤ人差別からイスラエルへと移住するという厳しい生活環境に育ったが、10代の頃からミュージカルのオーディションに合格するなど、音楽的才能を発揮していた。その後、カナダへ移住し、「ジャニス・ジョプリン/Janis Joplin」、「チャック・ベリー/Chuck Berry」などを手がけた大物プロデューサー、「ビル・キング/Bill King」に見いだされ、2004年にアルバム、「ソフィー・ミルマン」で、カナダでのデビューを果たした。ジャズ・スタンダードから、ポピュラー・ソング、ボサノヴァにシャンソン、ロシア民謡といった幅広い選曲と、それらを歌いこなす彼女の歌唱力に多くの人がファンとなった。私も「花丸合格」を与えたひとり。デビュー・アルバムに比べ、やや地味めの2ndアルバム、「メイク・サムワン・ハッピー/Make Someone Happy」から、「It Might As Well Be Spring/春の如く」を。
一方、震災と大津波に見舞われた大船渡。そこに40年近い歴史を誇るアマチュアのビッグ・JAZZバンドがあった。「大船渡サンドパイパーズ」。メンバーの多くが家族や家を失っていた。奇跡的にも無事残った海沿いの練習所で練習を続けていたサンドパイパーズに「いわてJAZZ2011」への出演の話が舞い込む。出演は、「ボブ・ジェームス and 松居慶子 "JAZZ FOR JAPAN" Project」、「寺井尚子カルテット」。超有名なジャズ・アーティストたち。しかもラストには全員によるセッションがあるという。
岩手の地で彼の心に芽生えた曲に「Put Your Hearts Together (心をひとつに)」とタイトルをつけたボブは、楽譜を携え、サンドパイパーズとの練習のため大船渡を訪れた。練習時間はたった2時間、本番のコンサートまで二日を残す日のことであった。
そしてコンサート当日。「サンドパーパーズ」中心による「いわてJAZZ2011 スペシャルバンド」から始まったコンサートも順調に進み、 いよいよラストのセッションを迎えた ・・・・。曲は「Put Your Hearts Together "心をひとつに"」。