「ダブル・スタンダード」、「二枚舌」。悪い意味で使われる一方、「二刀流」、「二足のわらじ」といえば、MLBの「ロサンゼルス・エンゼルス/Los Angeles Angels」で活躍する「大谷翔平」選手のように、こちらは、マルチな才能、多芸多才を表すいい意味で使われることが多い。JAZZの世界で言えば、欧州のジャズ・ピアニストの多くは、その出自がクラシック界で、クラシック音楽のJAZZアレンジ演奏という二刀流も鮮やかに決められるピアニストも多い。しかし、「JAZZ二刀流」と聞いて、私が真っ先に頭に浮かぶのは、「ウィントン・マルサリス/Wynton Marsalis」。
父はピアニストの「エリス・マルサリス/Ellis Marsalis」、兄はサックス奏者の「ブランフォード・マルサリス/Branford Marsalis」、弟二人も共にジャズ・ミュージシャン。1978年、「ジュリアード音楽院」にクラシック音楽で入学したが、1980年、わずか18歳で、「アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズ/Art Blakey & The Jazz Messengers」に加入し、プロとしての活動を開始。その後、「ハービー・ハンコック/Herbie Hancock」のメンバーを経て、リーダーとしてデビュー。ジャズを継承する一方、クラシック音楽の奏者および作曲家としても活動、例えばスコットランド出身のヴァイオリニスト、「二コラ・ベネデッティ/Nicola Benedetti」のために「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」を提供、2015年にロンドン交響楽団の演奏で初演された。1983年、グラミー賞のジャズ部門とクラシック部門を同時受賞など、現在まで、16のクラシックと、30以上のジャズのレコードを出しており、クラシックとジャズの両部門で合わせて9つのグラミー賞を獲得している。
さて、その「ウィントン・マルサリス」、ジャズとクラシックの二刀流の冴えを聴いていただこうか。ジャズのスタンダードからは、「スターダスト/Stardust」他が収録されているアルバム、「Hot House Flowers」(1984)。フルアルバムがアップされている。ウィントン以外のパーソネルは、「Branford Marsalis (tenor and soprano saxophone)」、「Jeff Watts (drums)」、「Ron Carter (bass)」、「Kenny Kirkland (piano)」。
クラシックのスタンダードは、ハイドンの「トランペット協奏曲変ホ長調第3楽章/III. Finale. Allegro from Concerto for Trumpet and Orchestra, in E-Flat Major」。アルバムは、一人八役の多重録音を駆使しての、「トランペット協奏曲集/Baroque Music For Trumpets」(1982、1987年録音)。グラミー賞受賞のアルバム、「トランペット協奏曲変ホ長調/Haydn, Hummel, Leopold Mozart: Trumpet Concertos」を含むコンピ・アルバム。
今宵のピアノ、スウェーデンのドラマー、「エミル・ブランクヴィスト/Emil Brandqvist」率いるピアノ・トリオ。アルバムは、3作目となる「Falling Crystals」(2016)。最近は、ドラマーが主役から脇役になったためか、ドラマーがリーダーとして率いるのは、昔ほど多くなくなっているように思う。1981年生まれ、38歳の気鋭の若手。多分このドラマーの「エミル・ブランクヴィスト」が惚れ込んだんでしょう、フィンランドのピアニスト、「ツォーマス・トゥルネン/Tuomas A. Turunen」、ベースの「マックス・ソルンベルグ/Max Thornberg(bass)」と2012年にトリオを結成、「Breathe Out」(2013)がデビュー・アルバム。「ツォーマス・トゥルネン」のピアノは、自然を見透すというか、その思索的な響きは絵画的で美しい。キラキラと、音が連鎖して降り注ぎ、ピアノが際立ってリリカルに響く。一部に弦楽四重奏とパーカッションが入るが、ストリングスとも自然に溶け合って違和感は全くない。そのアルバムから、「Through the Forest」を。