「ジョアン・ジルベルト」。1931年、ブラジル北東部バイーア州に生まれ、10歳までそこで育つ。父にもらったギターに夢中になり、学校をやめ、リオ・デ・ジャネイロに出て、音楽で生きる決心をするが、まったく売れず、マリファナ中毒になり、友人の家を転々とする苦悩の日々が続く。やがて姉の家に居候生活を始め、一日中バスルームに閉じこもりギターを弾きながら歌を歌い続ける。そんな壮絶な生活の中からサンバのリズムをガット・ギターだけで表現する、「バチーダ」とよばれる独特の奏法を編み出す。その後、ジョアンと出会った「A.C.ジョビン」は、その声とギターに惚れこみ、ジョビンと「ヴィニシウス・ジ・モラレス/Vinicius de Moraes」の手になるボサノヴァの源流とも言われる名曲、「想いあふれて/Chega de Saudade」の録音に参加する。まさに、ボサノヴァ胎動の年、1957年7月のことであった。(再録)
【 Pra Machucar meu Coração(私の心を傷つけるために) 】 by Ary Barroso
「♪ Tá fazendo um ano e meio, amor もう1年半にもなるんだね Que o nosso lar desmoronou 僕たちの家庭が壊れてから Meu sabiá, meu violão 僕のウグイス 僕のギター E uma cruel desilusão そしてひどい絶望感 Foi tudo que ficou 残ったのは それだけ Ficou たったそれだけが残った Prá machucar meu coração 私の心を傷つけるために
Quem sabe, não foi bem melhor assim 別れて良かったかなんて誰にもわからない Melhor prá você e melhor prá mim 君にとっても 僕にとってもね O mundo é uma escola 人生は 学校のようなもの Onde a gente precisa aprender みんなそこで学んでいくんだ A ciência de viver prá não sofrer 苦しまないで生きていく方法を ♪」 (翻訳アプリなどで適当に翻訳)
「♪ You can reach me by railway 会いに来て、列車でもいい
You can reach me by trailway 会いに来て、歩いてでもいい
You can reach me on an airplane 会いに来て、飛行機でもいいわ
You can reach me with your mind ここのの中ででもいいから会いに来て
You can reach me by caravan 会いに来て、隊商を組んででもいいから
Cross the desert like an Arab man アラブ人みたいに砂漠を越えて
I don't care how you get here 方法なんかなんでもいいから
Just get here if you can 必ずここまで会いに来て
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ♪」
今宵の歌姫も、「シェリル・ベンティーン/Cheryl Bentyne」。アルバムは、「Songs of Our Time」。日本のレコード会社の企画アルバムのようで、古いスタンダードではなく、1970~80年代のヒットソング、シニアかそれより少し若い世代のポップス・ファンが気に入るような選曲となっている。
「マスカレード/This Masquerade」、「ドント・ノウ・ホワイ/Don't Know Why」、「クロース・トゥ・ユー/Close to You(遥かなる影)」、「ウィル・ユー・スティル・ラブ・ミー・トゥモロー/Will You Still Love Me Tomorrow」、「タイム・アフター・タイム/Time after Time」、「青春の光と影/Both Sides Now」、「コーリング・ユー/Calling you」・・・。あの時代が懐かしく蘇ってくるかもしれません。そして、エンディング曲は、「いとしのエリー」。
そんな想いを抱いて、今宵の「60歳過ぎたら聴きたい歌」は、「君住む街角で/On The Streets where you Live」。ご存知、「マイ・フェア・レディ/My Fair Lady」のナンバー。そして、歌姫は、1966年生まれのオランダのジャズ・シンガー、「イルセ・ヒュイツインガー/Ilse Huizinga」。
6歳の時に家に来た古いピアノが、彼女を音楽に目覚めさせるきっかけだったという。「エラ・フィッツジェラルド/Ella Fitzgerald」、「ボリー・ホリディ/Billy Holiday」、「アビー・リンカーン/Abbey Lincoln」らのレコードの影響でジャズに関心を持つようになった。そして、17歳の時、「北海ジャズ・フェスティバル/the North Sea Jazz Festival」で「ベティ・カーター/Betty Carter」のライヴを聴き、ジャズ・ボーカルのレッスンを受け、歌手デビューへといたるようになったという。
さて、「君住む街角で」。ブロードウェイのナンバーを集めた魅力的なアルバム、「Beyond Broadway」(2005) から。ピアノ・トリオにサックスを加えたカルテット仕立て。ピアノは、彼女の夫で、アレンジャー、作曲家でもある「エリック・ヴァン・デル・リュイート/Erik van der Luijt」とのおしどりデュオ。
【 On The Streets where you Live 】 by Alan Jay Lerner / Frederick Loewe
「♪ I have often walked down the street before いままで何度もこの通りを歩いてきたし
But the pavement always 足元にある敷石も今までどおり
Stayed beneath my feet before 前と変わったわけではない
All at once am I でも君が住んでいる街だと知った途端
Several stories high ビル数階分ほど
Knowing I'm on the street where you live 舞い上がってしまう気分
Are there lilac trees ライラックの樹はあるかい
In the heart of town? 街の真ん中に?
Can you hear a lark in any other part of town? 街で雲雀のさえずりが聞こえるかい?
Does enchantment pour 魅力が溢れ出しているかい?
Out of every door? どのドアからも
No, it's just on the street where you live いやそうだとすれば、
それはきっと君住む街にいるからだ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ♪」
久しぶりの、「60歳過ぎたら聴きたい歌」は、「フォー・ワンス・イン・マイ・ライフ/For Once In My Life」。「生まれて初めて」、「人生でたった一度の」などという意味のスタンダード・ナンバー。この曲は、「ロナルド・ミラー/Ron Miller」作詞、「オーランド・マーデン/Orlando Murden」作曲で、1965年に作られた曲である。1966年に「トニー・ベネット/Tony Bennett」が歌ってヒットし、1968年には「スティーヴィー・ワンダー/Stevie Wonder」が歌ったものが、やはり大ヒットした。「フランク・シナトラ/Frank Sinatra」、「サミー・デイヴィス・ジュニア/Sammy Davis Jr.」、「カーメン・マクレエ/Carmen McRae」、「ナンシー・ウイルソン/Nancy Wilson」といった名だたる実力派ジャズ・シンガーに歌われ、すっかり代表的なスタンダード・ナンバーになっている。
【 For Once In My Life 】 作詞:Ronald Miller 作曲:Orlando Murden
「♪ For once in my life 生まれて初めて巡り会えた
I have someone who needs me 僕を必要とする人に
Someone I've needed so long ずっと探し求めていたんだ
For once, unafraid, もう今までのように怖くはない
I can go where life leads me どんな人生が待っていようと
And somehow I know I'll be strong なぜか強くなれる気がする
For once I can touch 生まれて初めて触れることができた
what my heart used to dream of いつも心のなかで夢見ていたものに
Long before I knew ずっと前からね
Someone warm like you 君のように温かい人なら
Would make my dreams come true きっと僕の夢を叶えてくれる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
For once, I can say, 生まれて初めて はっきり言える
this is mine, この愛は僕のもの
you can't take it 君でさえも奪うことなんかできない
As long as I know I have love, 僕が愛してるかぎりは
I can make it 僕はこの愛をきっと実らせて見せるよ
For once in my life, 生まれて初めて巡り会えたんだ
I have someone who needs me 僕を必要としてくれる人に ♪」
この曲、音域の広い曲なので、どちらかというと張りのある絶唱型のシンガー向きで、ソフトでハスキーなシンガーには向いていないので、ほとんど歌っていないという。そんなことはないでしょう、それは偏見でしょうと、思い出したのがスウェーデン美女シンガーの「スス・フォン・アーン/Suss von Ahn」が歌うボッサ・テイストの「For Once in My Life」。「Feel Sweden」というボッサのコンピ・アルバムに入っていたのだが、これがいたく気にいっていた。
「九月の歌」です。これも私にとっては、サウダージの「洋楽」。「プラターズ/The Platters」、「ナット・キング・コール/Nat King Cole」などで昔よく聴き、歌詞もよくわからないまま英語で口ずさんだ歌です。そのほかにも、「フランク・シナトラ/Frank Sinatra」、「チェット・ベイカー/Chet Baker」、「ビング・クロスビー/Bing Crosby」、「ウィリーネルソン/Willie Nelson」など、なぜかこの歌の歌い手は男性歌手が多い。
取り上げた歌手は、「ジョン・コルトレーン/John Coltrane」との共作アルバムで、名盤と名高い「John Coltrane and Johnny Hartman」(1963)で有名な男性シンガー、「ジョニー・ハートマン/Johnny Hartman」。今までも何回も取り上げてきた私ご贔屓の男性歌手です。(参照拙ブログ「男唄に男が惚れて(3) ~ジョニー・ハートマン ビロードの声に包まれて~」など)
このビロードのような独特の甘い声の持ち主、「ジョニー・ハートマン」は、1923年シカゴ生まれ。軍隊にいる時に歌い始め、プロ・デビューは1940年の中頃であったという。コルトレーンとの共作まではあまり注目されず、目立たない歌手であった。その後、一時音楽活動を中断し、復帰したのは1980年。2作をリリースしたが、その一つ「Once in Every Life」がグラミー賞にノミネートされたのは、1983年。60歳でなくなるわずか2年前であった。
彼の「ベツレヘム・レコード/Bethlehem Records」からのデビュー・アルバムにして、傑作と評される「ソングス・フロム・ザ・ハート/Song From The Heart」から「9月の歌」を ・・・。1955年録音。
「♪ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Oh, it’s a long, long while from May to December 5月から12月までの時間は長い
But the days grow short when you reach September だけど、9月になると日は短くなる
When the autumn weather turns the leaves to flame 葉が燃えるように色づくころには
One hasn’t got time for the waiting game 待ち時間など残されていない
Oh, the days dwindle down to a precious few 9月、そして11月になり
September, November 毎日が貴重な日々になっていく
And these few precious days I’ll spend with you この残された貴重な日々を
These precious days I’ll spend with you 残されたわずかな日々を君と過ごそう ♪」
隣町にあり、去年100周年を迎えた「宝塚歌劇団」を象徴する歌である「すみれの花咲く頃」の元歌は、古いシャンソンであるという。今回、「60歳過ぎたら聴きたい歌」で取り上げるのは、もうひとつの「すみれ」の歌、 「コートにすみれを」という邦題で知られている「Violets For Your Furs」(1941)である。「トミー・ドーシー楽団/the Tommy Dorsey Orchestra」の専属アレンジャーだった「マット・デニス/Matt Dennis」が1941年に作曲した、ちょっと気障なラヴ・ソング。冬の歌ではあるが、すみれの花に春のような恋の気分を託した歌は4月でもふさわしい。
【 Violets For Your Furs/コートにすみれを 】
作詞;トム・アデア/Tom Adair 作曲;マット・デニス/Matt Dennis
「♪ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
I bought you violets for your furs 僕があげたすみれの花をコートに飾ったら
and it was spring for a while, remember? ちょっとだけ春を感じられたことがあったね
I bought you violets for your furs 僕があげたすみれの花をコートに飾ったら
and there was April in that December. 12月なのに4月のような気分になったね
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
I bought you violets for your furs 僕があげたすみれの花をコートに飾ったら
and there was blue in the wintry sky, 冬空に明るい光が差し込んできたね
You pinned my violets to your furs 僕があげたすみれの花をコートに飾ったら
and gave a lift to the crowds passing by, 道ゆく人々が笑顔で微笑んだね
You smiled at me so sweetly, 君は僕を見て、とっても優しく微笑んだ
since then one thought occurs, その時なにかが芽生えたんだね
That we fell in love completely, そして二人は恋に落ちたんだ
the day I bought you violets for your furs. すみれの花をコートに飾ったら時からね ♪」
この歌を有名にしたのは、やっぱり、大御所「フランク・シナトラ/Frank Sinatra」の「Song for Young Lovers」(1953年)でしょうか。「チェット・ベイカー/Chet Baker」も負けじといい味を出しています。
しかし、やっぱり、女性ヴォーカルがこの歌には似合いそう。「ビリー・ホリデイ/Billie Holiday」が衰えた体と精神を振り絞って録音した晩年の傑作、「Lady in Satin」(1958)に収録されたこの歌は哀感を誘う。そして、我が長年のミューズ、「ステイシー・ケント/Stacey Kent」も歌っています。この歌は、明るく可憐な歌声がいいですね。
演奏盤であげるとすれば、1957年にリーダーとして初めて録音した「ジョン・コルトレーン/John Coltrane」の「Coltrane」でしょうが、私は、「お風呂」としておなじみの「マーティ・ペイチ/Marty Paich」の「I Get A Boot Out Of You」に収録されているナンバーが好きです。
さて、久しぶり「60歳過ぎたら聴きたい歌」は、「パリの四月/April In Paris」。作曲は、ミュージカルの作曲家として数々のスタンダード・ナンバーを残した「ヴァーノン・デューク/Vernon Duke」、作詞は、「虹の彼方に」の作詞でも知られる、「エドガー・イップ・ハーバーグ/Edgar Yipsel "Yip" Harburg」の二人。1932年のミュージカル「ウォーク・ア・リトル・ファスター」で歌われ、大ヒット。1952年に映画化された際には、「ドリス・デイ/Doris Day」が歌っている。
「♪ April in Paris, chestnuts in blossom パリの四月、栗の花は咲き
Holiday tables under the trees この木の下のテーブルで過ごす休日
April in Paris, this is a feeling パリの四月、この気分
No one can ever reprise 誰も他では味わえない
I never knew the charm of spring 私は春の魅力を知らなかった
Never met it face to face それを味わうことなんてなかったから
I never knew my heart could sing 心がこんなに呼んでいるとは思わなかった
Never missed a warm embrace, till 暖かい抱擁が恋しいと
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ♪」
そんなジプシー・ジャズ、ジプシー・スウィングの雰囲気を全面に押し出したアルバムがある。「コニー・エヴィンソン/Connie Evingson」の「Gypsy in My Soul」。「ジャンゴ・ラインハルト/Django Reinhardt」の「ホット・クラブ・バンド/Hot Club Band」ばりのスイング感が心地よい。その中から、フランス語で歌われる「パリの四月」です。彼女のキャリアなどよくわかりませんが、1962年生まれ、生まれ故郷のミネソタ州ミネアポリスを拠点に活動をしているようです。
【 The Boulevard of Broken Dreams 】 ハリー・ウォーレン作曲、アル・ダービン作詞
「♪ I walk along the street of sorrow, 哀しみの大通りを彷徨う
The Boulevard of Broken Dreams; 「夢破れ通り」と名付けられた通りを
Where gigolo and gigolette そこはジゴロやジゴレットが
Can take a kiss without regret, 悔やむことなくキスできる場所
So they forget their broken dreams. 彼らの夢が破れ去ったことを忘れるために
多くのジャズ・シンガーのカバーがあるが、ちょっと思い出しても「ダイアナ・クラール/Diana Krall」、「ジャシンサ/Jacintha」、「エイミー・ワインハウス/Amy Winehouse」、「グレース・マーヤ/Grace Mahya」、「ウンサン/Woong San」など、映画の中では「コンスタンス・ベネット/Constance Bennett」が歌ったためか、女性シンガーが多いようだ。しかし、私には男性歌手の方が、なんとなくリアリティがあって共感できるような気がする。そこで選んだのは、大御所、「トニー・ベネット/Tony Bennett」と「スティング/Sting」のデュオ。アルバムは、なんと豪華な顔ぶれとのデュエットでしょう、「デュエット/Duets: An American Classic」。
「♪ San Francisco morning coming clear and cold
サンフランシスコの澄んで冷たくなってくる朝の中で
Don't know if I'm waking or I'm dreaming
目が覚めているのか、夢を見ているのか分からない
Riding with Fats Waller on the Super Chief
ファッツ・ウォーラーとスーパーチーフ号に乗ると
He said, music's real, the rest is seeming
彼は言った、音楽はリアルだ、他はみせかけに過ぎないと
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
He left those soul shadows
彼は魂の影を残した
On my mind, on my mind, on my mind
私の心に、私の心に、私の心に ♪」
耳に残った曲は、「Music On The Way」。曲はもちろん、作曲者も全く知らなかったのだが、「ヘンリー・マンシーニ/Henry Mancini 」の曲である。番組では、映画「男の闘い/The Molly Maguires」(1969年)の挿入歌であるといっていたが、サウンド・トラックを調べてみても載っていないので、本当かどうかは定かでない。しかし、「ヘンリー・マンシーニ」のベスト・アルバムなどには収められているので、「マンシーニ作曲」というのは確かなようである。
【 MUSIC ON THE WAY 】 Music by Henry Mancini/Lyrics by Will Jennings
「♪ Oh my friend, we'll meet again someday
You made life worth the price we all pay
When the whole world goes wrong
The magic of your song creates a place
Here in my soul
Where hope can stay.
And I loved the music on the way
Did you know that I've won, come what may
I am part of your song
And you knew it all along
You gave me music on the way.